技術TODAY(第17回) ものづくりを変えるディープラーニングの可能性

業務課題 IoT・インフラ自動化・AI

公開日:2018.07.23

 AI(人工知能)の高度化技術の1つが「ディープラーニング(深層学習)」だ。その言葉を耳にする機会は増えているが、具体的に内容や活用法がピンと来ていない方も多いのではないだろうか。

 AIをより実務で活用するのに、コンピューターにさまざまな情報を学習(機械学習)させる。認識・分類能力を持たせるためだ。ディープラーニングは機械学習の1つの手法で、人間の頭脳をモデルにした「ニューラルネットワーク」をベースにする。データの特徴を、より深いレベルで学習させる。

 AIの研究自体は、半世紀以上の歴史を持つ。ただ、ディープラーニングを行うためには膨大かつ複雑なデータ処理が必要になる。そのため、実用化には時間がかかると考えられていた。しかし、2000年代に入ってコンピューターの処理能力が急速に向上した。これまで扱えなかったビッグデータの活用が可能になり、AIの進歩を支える存在になった。

 ディープラーニングは、自動運転における交通標識や信号の認識、医療分野では画像認識によるがん細胞の検出、さらにはスマートフォンの音声翻訳機能などで有効な技術とされている。これは、ディープラーニングがもともと認識・識別を得意とする技術だからだ。最近は、製造業、いわゆる「ものづくり業界」もディープラーニングによる認識・識別技術に注目している。

製品の目視検査を自動化

 製造業における事業の流れは、大きく「開発」「生産」「品質管理」に分けられる。このうち開発部門ではCAD(computer-aided design)、生産部門では産業用ロボットの制御などの形で早くからコンピューターが導入され、着実な成果を上げた。また、品質管理についても、コンピューターによる計測、検査が広く導入されている。

 しかし、サイズや重量の確認といった基準が明確で定量的なチェックではなく、「不良品の発見」といった基準の明文化・定量化が困難な品質管理については、そうはいかなかった。豊富な経験や勘を持つ「人の目」に頼る部分が大きいのが現状だ。そのため、最終工程の確認作業は専任担当者の目視で行われる生産現場は少なくない。

 その負担は大きい。生産自動化で24時間稼働するラインなどでは、常に人員を配置する必要がある。当然、そのコストは製品価格に影響する。また、担当者の属人的なスキルに品質管理のレベルが左右される問題もある。製造物責任が問われかねない製造業にとって、品質管理は最重点項目。そこにAIを用いることで、人員配置コストの削減やチェックレベルの均一化といった効果が期待されている。

簡単に、「自分だけのAI」を作れる

 具体例の1つが、ディープラーニングの研究を手掛けるNTTコムウェアの取り組みだ。同社は、2017年3月に、高度な画像認識技術によって目視による外観検査を自動化する新ソリューション「Deep Learning画像認識プラットフォーム」(現在名称:画像認識AI「Deeptector」)の提供を開始した。同年11月には、「製品画像を外部に出したくない」「工場の厳しい環境下で使いたい」という顧客のニーズに対して、日本ヒューレット・パッカードが提供するハードウエアにDeeptectorをプリインストールしたアプライアンスモデル、「Deeptector産業用エッジAIパッケージ」を開発し、販売を開始した。

 NTTコムウェアでは、ディープラーニングの利用領域として「監視・検閲」「保全・点検」「製品検査」の各分野に提案し、それぞれで多くの引き合いを得ているが、その中でも「製品検査」に関するニーズの強さを実感しているという。

 ディープラーニングを行う場合、まず初めに判定対象となる製品の画像と正解を大量に用意してコンピューターに学習させる必要がある。Deeptectorの強みは「簡単に自分だけのAIが作れるところ」だ。「分かりやすく、使いやすい」と定評のあるGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)も具備しており、マウス操作によって、学習用画像の収集、正解値定義から、学習、判定まで一連の作業の多くを実施できるため、プログラミングの手間が要らず、現場にて独自のAIが容易に作成できる。

 なおDeeptectorでは将来、特に製造業の顧客から要望が多い「正例判定機能」を追加する予定である。「正例判定機能」が実現すれば、良品の画像学習によって不良品の検出が可能になるため、特に新製品の製品検査で、一層効果を発揮すると期待される。

NTTグループコレクション2017展示

NTTコムウェア「Deeptector」商品サイト
https://www.nttcom.co.jp/smartcloud/ai/deeptector/

 現在、ものづくりの分野において、ディープラーニングによるAIは、開発や製造など品質管理以外の領域でも活用が進められている。例えばすでに実用化されたユニークなソリューションとして、NTTアドバンステクノロジの「故障予兆分析サービス」がある。これは、大量に蓄積された工場内の装置ログなどをAIで分析し、将来起こり得る異常・故障の発見、予測を可能にするソリューションだ。事前に検知することで装置停止時間の短縮を実現し、生産設備の稼働率向上を図る。

 世界の製造業は現在、「第4次産業革命」と呼ばれる大きな構造変化の中にある。工場内のあらゆる装置をインターネット接続するIoTをはじめ、働く人々の知的活動を支援するAI、そして

AIの能力を飛躍的に高めるディープラーニングの進歩は、変革の成否のカギを握る要素になっている。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=林 達哉

【T】

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