システム構築のための調整力向上講座(第35回) カレンシーを意識して「価値の交換」がスムーズに

コミュニケーション

公開日:2018.08.09

普段からカレンシーを意識して蓄える

 「カレンシー」は、影響力の発揮について考える際に非常に役立つ概念です。小さな権限しか与えられていない現場リーダーであっても、普段からこのカレンシーを意識して蓄える努力をすることで、価値の交換を行いやすくなります。具体的に、現場リーダーが持つことができるカレンシーには、どのようなものがあるか見ておきましょう。

・ビジョン、目的
 人は自分のすることに「意味」を求めます。「この仕事をすることで何が達成できるのか」というビジョンや「自分の仕事は誰の役に立つのか」といった目的があることで、自分の仕事に意味付けをすることができるからです。

 このビジョンや目的を示すことができるのは、リーダーしかいません。ただこなすべきタスクを与えるのではなく、その背景にあるビジョンと目的を示すことで、メンバーもそれ以外のステークホルダーもそれに共感し、協力しようと思うのです。

・メンバーの成長の助け
 プロジェクトメンバー、特にエンジニアにとって、モチベーションの大きな源泉となるのは「自分の成長」です。仕事を通じて技術力を高めたり、自分の対応できる範囲を広げたりすることに喜びを感じます。また、自分が成長できているか、方向性は間違っていないかなどのフィードバックを欲しがります。こうしたメンバーが成長できる環境づくりも現場リーダーの仕事の1つです。

・プライベートな事情への理解
 筆者がプロジェクトマネジャーをしていたときに心がけていたことの1つに、「帰ろうとする人を呼び止めない」というものがあります。

 プロジェクトが山場を迎えて現場の負荷が高まっている状況で、早めに帰ろうとしているメンバーがいたとします。こんなときはつい、「あの仕事はどうなっているんだ?」「進捗はどうなんだ?」と尋ねたくなります。

 しかし、本人は状況を理解した上で、後ろめたく感じながら帰ろうとしているわけです。呼び止めて詰問すれば、そんな気持ちも吹っ飛んでしまい、反発の感情を生んでしまいます。本当にどうしても必要なとき以外は呼び止めるのは避けるべきです。

 人は仕事だけで生きているわけではありません。それぞれプライベートな事情を抱えています。プライベートな事情に理解を示し踏み込まないことで、メンバーは「この人は分かってくれている」と思えるのです。

・感謝、承認
 現場リーダーは、メンバーに追加で仕事の指示をしたり、自分で対応し切れない仕事を振ったりすることがよくあります。こうしたとき「ありがとう」「助かったよ」と相手に言えているでしょうか。筆者の経験上、意外と言葉にできない人が多いのです。心の中では思っていても、口に出さなければメンバーは「忙しい中、対応したのに、当たり前だと思っているのか」などと考えてしまうかもしれません。

 現場リーダーは言葉を惜しんではいけません。感謝の言葉や承認の言葉は、現場リーダーにとって最も大きなカレンシーとなります。

・評判
 周りから「あの人はデキる」「前向きでやる気がある」と評価されることは誰にとってもうれしいものです。せっかく一生懸命に頑張っても、それが日の目を見なければ、モチベーションを維持しづらくなってしまいます。特にエンジニアにとっては、技術的な卓越性を認められることは、自らの存在価値の認識につながります。

 例えば「あいつの◯◯に関する技術力はすごいぞ」と別のメンバーに言ってあげれば、間接的に本人の耳に入るでしょう。本人にとっては、リーダーに認められたことと、メンバーに自分の能力を知ってもらえたことの二重の喜びにつながります。

 また、メンバーそれぞれは何かしらの得意分野を持っているものです。その得意分野についてチームで勉強会を開催して、講師をしてもらうのもよい方法です。そうすれば、チームの中で「この分野は◯◯さん」という地位が確立されます。「士は己を知る者の為に死す」といいます。人は自分の価値を知ってくれているチームのために貢献しようと思うものなのです。

 ただし、気を付ける必要があるのは、これらカレンシーは相手を操作するために使うものではないという点です。人は「動かされたい」わけではありません。自ら「動きたい」のです。

 操作しようという意図はすぐ見抜かれます。上っ面の言葉は通用しません。感謝や承認のカレンシーは、心からのものでなければメンバーには通じないということを肝に銘じましょう。真にメンバーの成長を願い、仕事ぶりに感謝する。この気持ちを表現する手段として言葉があるということを忘れないでください。

まとめ
●影響力を発揮することは「価値を交換」することである。権限を持っていなくても価値を交換することは可能だ
●相手が何に価値を置くのかを理解し、「カレンシー」を普段から蓄える努力が必要
●現場リーダーは言葉を惜しんではいけない。また相手を操作しようとしてはいけない

 

執筆=芝本 秀徳/プロセスデザインエージェント代表取締役

プロセスコンサルタント、戦略実行ファシリテーター。品質と納期が絶対の世界に身を置き、ソフトウエアベンダーにおいて大手自動車部品メーカー、大手エレクトロニクスメーカーのソフトウエア開発に携わる。現在は「人と組織の実行品質を高める」 ことを主眼に、PMO構築支援、ベンダーマネジメント支援、戦略構築からプロジェクトのモニタリング、実行までを一貫して支援するファシリテーション型コンサルティングを行う。

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