ビジネスシーン別・手土産の選び方(第1回) 手土産で伝える「腹を切ってお詫び」する思い

雑学

公開日:2015.07.16

 ビジネスにおいて、ミスをしないに越したことはありません。会社に大きな損害を与えてしまう可能性があるとはいえ、ミスを絶対にしない人間はいません。ミスが発覚したときには、会社としてすぐに謝罪に出向くことが必要です。もちろん、手ぶらでというわけにはいきません。何か手土産をと考えます。そんなときに使えるのが、東京・新橋の老舗和菓子店「新正堂」の、その名もずばり「切腹最中」です。

 「切腹最中」を初めて見た人は、普通の最中とはまったく違うその姿に驚くことでしょう。皮からはみ出るようにたっぷりと詰まった大量の餡、周りには鉢巻に見立てた白紙がキリリと巻かれています。その姿はまさに、「腹を切る覚悟」を示しています。深々と頭を下げながら差し出せば、「いやいや、ここまで……」と、先方の厳しい顔も多少は和らぐかもしれません。

 実は新正堂は、あの忠臣蔵で有名な浅野内匠頭が切腹した場所、田村右京太夫屋敷跡にあります。さらにこの「切腹最中」は、3代目の店主渡辺仁久さんが、周囲の大反対を押し切って商品化したというもの。魂がこもった逸品です。

 姿だけではなく、味にもこだわっています。最中の皮には宮城産の上質なもち米を使っているので、香りがよくしっかりとした噛みごたえがあります。中の餡は、十勝産の高級小豆を使用。ボリュームのわりにあっさりした味わいなのは、結晶の大きな純度の高い砂糖を加えて炊いているからだとか。中にはもちもちとした求肥が潜んでいるのも、よいアクセント。甘党でなくても2つくらいはすんなりお腹におさまります。

詫びて終わりではなく、次の話につなげてこその手土産

 「切腹最中」以外に、新正堂にはもう1つ、企業への手土産に適した品があります。それが「景気上昇最中」。いかにも縁起のよいネーミングですが、ケイキジョウショウサイチュウと読みます。読んで字のごとく、「今まさに、景気上昇の真っ最中!」ということです。形は小判型、なかの餡は黒字にちなんで黒糖を使ったコクのあるものになっています。

 「切腹最中」と「景気上昇最中」を詰め合わせたものが「営業セット」として販売されており、「お詫びには必ずこれを持参する」というビジネスマンも多いのだそうです。ミスの謝罪だけでなく、相手先企業の発展のために、今後ますます努力いたしますというメッセージを手土産に込めるという演出です。

 ただし、こうした洒落が通じるのは、信頼関係できている取引先が相手の場合です。初めての取引で致命的なミスを起こして、「切腹最中」を持っていくと、「ミスを洒落でごまかすつもりか」と逆効果になりかねません。お互いのことがよく分かっている関係性があれば、「小さなミスとはいえ切腹の覚悟で謝罪します。今後は腹を切らないで済むようにしっかり頑張ります」という決意ととってくれるでしょう。

 「切腹最中」は消費期限1週間(夏場は5日間)、「景気上昇最中」は消費期限10日間(夏場は8日間)と、比較的日持ちがするのもポイントです。お詫びに持参した手土産に「当日中にお召し上がりください」なんて押しつけがましいことが書かれていたら、謝罪の効果も半減します。あくまで、「気が向いたときに召し上がっていただければ……」くらいの謙虚さがふさわしいのです。

新正堂
東京都港区新橋4-27-2
http://www.shinshodoh.co.jp/
オンラインショッピングでお取り寄せも可能

※掲載している情報は、記事執筆時点(2015年7月)のものです

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