ゼロ円販促(第8回) 消費者が信頼するのは、広告よりSNS

顧客満足度向上 コミュニケーション販路拡大

公開日:2022.08.05

 連載スタートからPRと広告の違いと消費者の購入プロセスの変化を解説し、その後、第5回第6回第7回において、PR活動で「何を伝えるか」を基本設計に沿ってご説明しました。読者の皆さんに伝えたい物語が見えてきたなら、うれしいです。

 第8回からは「何を使って伝えるか」。PRのツールについて説明します。情報過剰な今の社会で、PRに必須のツールは何か。それはSNSでしょう。

 10年間で530倍になった情報量は、その後も増えるばかり。膨大な情報が飛び交っている今、消費者は賢くなり、企業が直接提供する情報には懐疑的になっています。大手企業がいくら「この製品は素晴らしいですよ!」と言っても、「それって会社の広報が言っているんでしょ」「お金を払って広告として流している情報でしょ」と、頭から疑ってかかるのが、21世紀の標準的な消費者です。

 こうした中で、今の消費者は誰からの情報を信じるか。それは、SNSでつながっている人。自分が信頼し、フォローしている人たちです。タイムラインに自分がフォローしている人から情報が流れてくると、「あ、あの人だ。あの人がリツイートして、広めている情報なら間違いない」と、一気に信頼できる気持ちを抱くのです。

 今、SNSの利用者がどのくらいいるか、ご存じですか。2021年末には、8149万人、実にネットユーザーの80.9%がSNSを利用しているという推計があります。その数は右肩上がりで、1カ月に平均約10.1万人ずつ増えていると見られています(ICT総研「2022年度 SNS利用動向に関する調査」)。

 しかも、SNSはもはや若い人だけのメディアではありません。40代、50代、さらには60代以上のSNS利用者も増加しているといいます。今やSNSは、ビジネスにおいても見逃せないメディアになってきています。

企業は本質的にSNSが苦手

 SNSを通じて有名になった人はたくさんいます。例えば、ユーチューバーのHIKAKIN(ヒカキン)さん。ユーチューブの「HikakinTV」だけで登録者数が1070万人以上いるという、超有名人ですね(2022年6月24日時点)。それから「モテクリエイター」として大人気のゆうこすさん。元アイドルの方ですが、自分でSNSを始めて数年で、累計190万人以上ものフォロワーをゲットしてブレーク(2022年6月17日時点)。テレビや雑誌、CMなどで大人気です。

 このように、SNSから有名になって、ほかのメディアに出ていくという人がどんどん増えていますよね。ところが、企業に目を転じてみると、残念ながらSNSを通じて「無名だった企業がこんなに有名になった!」という成功例は、とても少ない。

 企業というのは本質的にSNSを使うのが苦手です。後で詳しく述べますが、企業というものの性質として、「情報発信は完璧でなければならない」「弱みを見せるべきではない」という固定観念があって、なかなか思い切ったことができない。一方、SNSというのはすごく柔軟で、スピード感があるメディアです。そこに追い付けていない、という企業がとても多いです。

 昔からの広告やプロモーションの考え方をそのままSNSに当てはめても、うまくいきません。だからこそ、小さな会社やこれから起業する人にはチャンスなのですが、そもそもSNSは、実はかなり特殊な分野なのだと、まず分かっていただきたいと思います。

SNSの鉄則は、「人対人」のコミュニケーション

 SNSの基本は「人の心を動かす」ことにあります。実はこれ、PRの本質とまったく一緒です。要するに、いずれも一方通行の宣伝ではないのです。「このたび、お鍋を発売します!」とか、「今度こういうサービスが始まります!」などと一方的に知らせるのではありません。

 その商品やサービスを知った第三者が、「このお鍋、いいよ!」「このサービス、面白いね!」と思わず言いたくなるようなコミュニケーションと信頼をつくる活動。それがPRの本質であり、企業におけるSNS活用の大事なポイントです。イメージとしては、「人対人」のコミュニケーションに限りなく近いと思います。これが企業の非常に苦手とするところなのです。

 企業がなぜSNSをうまく活用できていないかというと、消費者とのコミュニケーションのスタイルがどうしても、「会社対人」になりがちだからです。「ついに発売!」などと、自分の伝えたいことだけを一方的に伝えて、伝えたくない部分については、「それはお答えできません」と、記者会見のようにシャットアウトする。そういう一方的な姿勢でSNSをしているからです。

 企業は今までの習慣で、つい完璧なブランドイメージを保とうとしてしまいます。けれど、それを見た一般の人はどう思うか。「あっ、そう」。それだけです。一方的な発表ではつまらないし、人の心は動かない。最終的には、「すごく上から目線で、この会社の考え方は何か違うな」と、見た人から無視されたり、たたかれたりしてしまいます。SNSで大事なのは、未完成であることがすごく生きるということです。

 企業のアカウントであっても、SNSの投稿者の方には、ぜひ人間らしさを出していただきたいです。

 「完璧にできないよ。人間だもん。だから応援してね」
 「ちょっと、おしゃべりしようよ」
 「私は、夫と保育園に通う息子と3人暮らしです」……。
 そういう形で、人対人のコミュニケーションにすることで、
 「笹木郁乃さんって、ちょっと面白いかも」
 「この笹木郁乃さんが投稿するA社のアカウントも、すごく人間らしい」
 「そっか、会社も人間なんだよね。頑張っているんだね。つい応援しちゃうな」

 という感情が、見ている方に湧き上がってきます。未完成だけど魅力的である。結果、相手の気持ちが動く。それこそがSNSです。

 SNSは本来、人対人でコミュニケーションするためのツールなので、企業がいきなり入ってくると、すごく違和感が出てしまいます。だから企業がPRに使うとしても、企業というより個人を前面に出すのがコツです。

 「A社に対してはコメントしづらいけど、A社の笹木郁乃さんにだったら、ついコメントしたくなっちゃう」と思わせれば、多くの人に見てもらい、心を動かせます。完璧な企業像を壊せた会社のほうが、SNSでは人気を得られるのです。

●図1  SNS活用のコツは「人対人」のコミュニケーション

執筆=笹木 郁乃

山形大学工学部卒業後、アイシン精機で研究開発に従事。その後寝具メーカーのエアウィーヴの第1号正社員として転職し、PRに注力。売上高を5年で1億円から115億円に伸ばす急成長に貢献。鍋メーカー・愛知ドビーでもメディア露出により注文殺到でお届けまで12カ月待ちに貢献。その後、2017年ikunoPRを設立、2019年LITAに社名変更。企業のPR支援のほか、経営者や個人事業主、広報担当者などにPRスキルを伝える「PR塾」も主催し、約1000名が長期講座で学ぶ。これまで5年間常に満員御礼開催。2021年7月に2冊目となる著書「SNS×メディアPR100の法則」(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓。発売日即日重版。プライベートでは一児の母。

【T】

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