販路拡大のキモ(第2回) インバウンドの主役、中国人を取り込む三種の神器

インバウンド対応

公開日:2018.08.10

 2020年の東京オリンピック開催を前に、訪日外国人観光客の増加が続いている。政府が2016年に掲げた「2020年に4000万人」の達成も夢ではない。目標達成のために重要になってくるのが「おもてなし」の充実だ。外国人観光客のニーズを捉えた、きめ細かなサービスで満足度を高めたい。

訪日人数、消費額ともにトップは「中国」

 2017年に日本を訪れた外国人旅行者は約2869万人で、過去最高を記録した。増加傾向は2011年の東日本大震災以降一貫している。今後、ラグビーワールドカップ、東京オリンピックといった大型イベントが開催されることを考えると、増加が続く可能性は高い。

 訪日観光客の国籍を見てみると、最も多かったのは中国で約735万人。2015年から3年連続のトップとなっている。都市の繁華街や観光地でその姿を見かける機会は増え、もはや、日常風景になった感すらある。

 訪日観光客の増加に伴い、彼らが日本で消費するお金も着実に増えている。観光庁の調査によると2017年の旅行消費額は4兆円を超え、過去最高となった。こちらの国別トップも中国で、全消費額の約4割を占める。

 訪日外国人の旅行消費額のうち、買物代の合計は約1兆6400億円。そのうち中国人が約8800億円を占める。中国人一人当たりの買い物代は約12万円で、全外国人平均(約5万7000円)の倍以上となる。「爆買い」は終息したとの見方もあるが、日本にとって中国人訪日客がインバウンド需要の最大の担い手であるのは間違いない。

 そんなインバウンドの主役である中国人訪日客向けのビジネスの“三種の神器”が「無料Wi-Fi」「コミュニケーションツール」「決済サービス」だ。

Wi-Fiによる情報提供基盤の整備で誘引する

 訪日外国人客が感じる不満に関する観光庁の調査では、旅行中困ったこととして「無料公衆無線LAN(フリーWi-Fi)環境」を挙げる人が多かった。この問題を解決するため各地の自治体、企業が積極的に整備を進めている。

 例えば、2015年に観光庁が発表した「外国人旅行者に対するアンケート調査結果について」では、訪日した外国人が困ったことのトップは「無料Wi-Fiの少なさ」(36.7%)だった。続いて2016年に観光庁が発表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」でも、訪日した外国人が困ったことのトップは「無料Wi-Fiの少なさ」(46.6%)だった。

 ようやく、2017年に観光庁が発表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関するアンケート結果」で、訪日した外国人が困ったことの中で、「無料Wi-Fiの少なさ」(28.7%)は3位にランクダウン。2018年に観光庁が発表した「訪日外国人旅行者の受入環境整備における国内の多言語対応に関するアンケート調査」でも3位(21.2%)となっている。多少の改善は見られるとはいえ、無料Wi-Fiの整備は欠かせないといってよい。

多言語対応でコミュニケーション力をアップ

 それでは、2018年、「無料Wi-Fiの少なさ」を抑えて、訪日外国人が困ったことの1位と2位になったのはなんだったのか。答えは「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」(1位・26.1%)と「多言語表示の少なさ、分かりにくさ」(2位・21.8%)だ。

 コミュニケーションの手段はなんといっても言葉だ。買い物時の不便に限らず、生命の危険にもつながりかねない。日本人は英語が不得意と言われるが、それでも、多少は話せるケースは多い。しかし、中国語で対応できるようにしているケースは、まだまだそれほど多くはない。

 コミュニケーションの改善に劇的な効果があるのが翻訳機だ。最近登場した手のひらサイズの音声翻訳機や、スマートフォンの自動翻訳アプリが該当する。これらは英語に限らず、中国語を含む多言語対応のものが多いだけに、マルチリンガルのコミュニケーションが手軽に実現する。

 前述の調査でも、コミュニケーションに関して飲食店で困った場面のトップが「料理を選ぶ・注文する際」(65.8%)、小売店で困った場面のトップが「商品の内容や使い方を確認する際」(49.6%)だ。訪日客相手のビジネスでは、コミュニケーションの可否が売り上げに大きく影響する。

中国人客の財布とハートをつかむ「キャッシュレス決済サービス」

 無料Wi-Fiで訪日外国人を集め、翻訳器やスマホアプリでコミュニケーションを充実させて、最終的にお金を使ってもらう。それを促進するのに重要なのが、キャッシュレス決済サービスだ。

 特に中国人は本国では、現金を使わないキャッシュレス決済が当たり前だ。本国と同様の買い物環境を整えるのがポイントだ。まず、カード決済は中国においては、中国銀聯が運営する銀聯カードの普及率が非常に高い。この対応は不可欠だ。

 次に、「WeChat Pay(微信支付)」や「AliPay(支付宝)」といった、スマートフォンを使った決済サービスへの対応だ。これらの決済サービスは、買い物時にスマートフォンの画面にQRコードを表示させ、店舗でスキャンすると同時に登録した預金口座から代金が引き落とされる。現金やカードを持ち歩く必要がなく、スマホだけですべてが完了する。

 以上、インバウンド需要の主役である中国人客をつかむには、「無料Wi-Fi」「コミュニケーションツール」「キャッシュレス決済」の最低3つはそろえたい。

※QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です

執筆=林 達哉

【MT】

あわせて読みたい記事

連載バックナンバー