訪日外国人事情(第4回) インバウンド対応の悩み。宿泊施設を救うSNS

自動化・AI インバウンド対応人手不足対策

公開日:2018.09.05

 インバウンドの勢いが止まらない。日本を訪れる旅行者の数は5年連続で記録を更新中だ。一方、受け入れ環境に対する最も多い悩みが、施設スタッフとのコミュニケーションだ。この処方箋として注目されるのが、外国人旅行者が情報収集で頻繁に利用するSNSチャットの活用だ。宿泊施設でSNSのチャットを多言語対応にすれば、旅行者とのコミュニケーションはよりスムーズとなる可能性が高い。

拡大する市場、課題はコミュニケーション

 2015年の新語・流行語大賞を受賞した「爆買い」が過去のものになり、現在日本を訪れる旅行者のニーズはモノ消費からコト消費へと変化している。日本でしか見られない自然遺産や建造物の鑑賞、伝統工芸の体験など、「買いたい」だけでなく「やってみたい」という需要が増えてきた。また、観光庁「平成29年訪日外国人消費動向調査」によると、2017年の訪日外国人旅行者のうち6割がリピーターだ。東京・京都・大阪といった主要観光地以外の地方に足を運ぶリピーターの外国人も多い。

 リピーターが増えると、必要な観光情報の質も変わる。以前であれば、ホテル・旅館の仕様や値段、空き状況、場所が確認できれば十分だった。今はそれだけでなく、周辺の見どころや体験できるアクティビティーなど、幅広い情報が求められるようになった。

 旅行前でなく、旅行中に必要とされる情報の質も違ってきている。リピーターはより深い体験を求める。やりたいことが出てくると、まずは宿泊施設のスタッフに聞く。だからこそ、「施設等のスタッフとのコミュニケーションが取れない」というのは施設側にとって大きなデメリットになる。十分なサービスが提供できず、せっかく来てくれた旅行者に不満を抱かせるからだ。観光地や宿泊施設の評価は口コミで伝わりやすい。将来的に機会損失を招きかねない。

宿泊施設の課題を解決するAIチャットボット

 宿泊施設からすると、日本を訪れる旅行者とコミュニケーションを取り、満足度を高めたい。旅行中はもちろんのこと、旅行前、さらに帰国した後もよい口コミを発信してもらい、再訪につながるよう、宿泊者に働きかけたいというニーズがある。

 とはいえ、外国語に堪能なスタッフを雇い入れるにはコストがかかる。地域によっては、そもそも深刻な人手不足という所もある。加えて宿泊施設の業務は、24時間絶えず気配りが求められる。世界中からの問い合わせに答えたり、宿泊者とコミュニケーションを取ったり、やるべきことは山ほどある。

 もちろん、観光業界もこの状況を打破するために努力している。Webサイトを多言語対応にするのもその1つだ。とはいえ、Webサイトだけ多言語対応にしても、宿泊者と実際にコミュニケーションが取れなければ、本当の意味での顧客満足度は高められない。仮に外国語に堪能なスタッフを雇ったとしても、24時間365日、常にそのスタッフが対応できるわけではない。

 そこで、旅行者が情報収集で頻繁に利用するSNSチャットの活用に注目が集まっている。宿泊施設でSNSのチャットを多言語対応にする。そうすれば、宿泊者とのコミュニケーション効率は格段に上がる。

 このSNSのチャットでのやり取りをAIで自動化。さらに多言語対応させる。問い合わせ対応を自動化できるので、施設スタッフに負担をかけずに宿泊者の満足度を高められる。人手不足の中、顧客満足度向上の切り札ともいえる。

 例えば、周辺の見どころ情報やお薦めレストランの案内、予約などがチャットで可能になれば、旅行者も宿泊施設もコミュニケーションの負荷が減る。宿泊施設にとってはSNSを通じて一度宿泊してくれた顧客とつながり続けられる。リピート訪問や口コミ入力の促進など、旅行後もコミュニケーションが継続する。

 インバウンド需要が拡大する今、日本流のきめ細かな「おもてなし」の底力が求められている。すべてを人間だけで対応するのではなく、テクノロジーを活用して「おもてなし」の質を向上させる。こうした取り組みも、日本を訪れる旅行者が喜ぶ日本らしさになるのではないだろうか。

執筆=岩崎 史絵

【MT】

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