懐かしのヒット商品(第12回) 学研のおばちゃんまだかな

雑学

公開日:2017.10.24

 戦後日本の出版史で、金字塔となる記録を樹立した小学生向け学習雑誌に、学習研究社(現・学研ホールディングス、以下学研)の「科学」と「学習」シリーズがあります。同誌は「1年の学習」「1年の科学」というように、小学生の学年ごとに刊行されていました。最盛期の両誌(12誌)は発行部数の総計が、670万部を突破。当時の子どもの3人に2人は読んでいたといわれ、文字通り「国民的」な学習雑誌の地位を獲得していたのです。なぜ学習と科学は、それだけの部数を発行できたのでしょう。

より子どもと教師に寄り添う

 書店で新雑誌を流通させるには、出版社が他誌で一定の発行実績を持っていなければ、取引部数が少ない、もしくは扱わないという商習慣がありました。創業した頃の学研も同様で、書店で新雑誌を流通させるのは難しい状況でした。

 また教育現場では、戦争の荒廃から教科書や施設などあらゆる物資が不足し、戦前の教育カリキュラムは否定されて、教育指針が定まっていない状況でした。そのような状況で1946年に創刊されたのが学習でした。

 同社の創業者である吉岡秀人氏は、日本の教育を復興し、教育現場で不足する学習教材を補える水準の学習雑誌を作ろうと企図したと述べています。こうした大きな視点に基づく編集方針から、「学習」にはユニークな記事が誌面を飾るようになります。

 「学習」には“「できる」よろこびとふかく学びとるチカラを”というコンセプトがありました。子どもの「ふかく」学びとるチカラを育むために、内容は学習指導要領に即したものにすると同時に、掲載される月号を実際の授業の進捗と足並みをそろえました。この配慮から授業の補助教材としても使いやすいものとして評判を得ます。

ありがちな学習雑誌のイメージを一新する

 「よろこび」という面では、大衆的でとっつきやすい誌面にしたことが挙げられます。同じ内容でも描き方や扱い方を分かりやすく、かつ楽しく読めるように心掛けた構成です。軽めの読み物に仕上げたり、時には人気漫画家を起用したりなどして、四角四面で敬遠されがちな学習誌のイメージを変え、戸口を広くしようとしたのです。今でこそ、こうした楽しい娯楽雑誌の装いをとる学習誌も見かけるようになりましたが、当時としては新鮮でした。

 そして特筆されるべき工夫が科学の「付録」です。1957年に創刊された科学は、1963年から付録付きとなります。これは安易に「物で釣る」という狙いではありませんでした。そこには、「科学の夢」が包み込まれた科学の広い世界へ橋渡しをする役目を与えられていたのです。

 同社には、1950年に映画局という部署が発足しています。創業者の吉岡氏は、紙媒体だけでなく映像でも、小学生たちに学習への興味をかき立てる施策を打っていました。

 その立体版といえるものが付録だったのです。それらは、人体標本や解剖セット、色水実験キット、金属鉱物や岩石の標本、簡易的な顕微鏡、カメラ、鉱石ラジオなど、手に取ることで広い科学の世界に足を踏み入れる第一歩となるものでした。

 それらはコストを抑えて低廉な価格にしつつも、チープで興味本位な構成にはしませんでした。核心となる原理を理解させつつ、魅力的に仕上げる手腕に優れていました。

 さらに表面的な面白さよりも、子どもが使ったときの安全までを配慮し、企画やアイデアを取捨選択する良心的な姿勢も持っていました。そうした点が学校や家庭での信頼を得て、学習と科学は日本PTA全国協議会推薦の学習雑誌として認められたのです。 

子どもも口ずさんだ独特の販売システム

 学習と科学は、書店で扱わない独自の販売システムによって業績を伸ばしました。受け身で書店に置かれて買われるのを待つのではなく、積極的に消費者へ手渡すという販路を開拓します。学校の先生や関係者に営業をかけて、学習を補助する雑誌として生徒に直接販売する学校直販制というものです。

 ところが、1971年に学校で特定企業の製品販売を禁止した消費者基本法が施行され、学校直販制が行えなくなります。同社は、教育コンパニオンと呼ばれる女性の販売員を中心とした家庭直販制という営業スタイルへと転換します。これが地域のネットワークにつながり、親と密着した独特の販売スタイルを築き上げます。転換期には教育コンパニオンを待ちわびる子どもの心情を歌詞にしたテレビCMを制作し、さらに新しい営業スタイルを世間に浸透させました。 

学研の教材が、子どもの探究心を芽生えさす

 学研が歴史に残る学習雑誌を残せたのは、こうした付録を含めた誌面と販売姿勢を一体にした姿勢があったからといえます。世の中には、活字だけで補助学習を提供する参考書はいくらでもあります。また、雑誌の付録も同社の専売特許ではありません。

 しかし「教育現場で子どもの興味をさらに深める補助教材」というスケールの大きな編集方針を持ち、「紙の勉強だけでは本当の科学の面白さは分からない」とビジュアルや手で触れる付録も活用した学習雑誌は希少な存在です。

 「ためになるから読め」と上から押し付ける姿勢でなく、「どうやったらより子どもに分かりやすくなるか、面白くなるか」といった、まるで娯楽誌のような創意工夫にも熱心だった編集方針の学習誌は、当時は特異な存在だったのです。

 創刊時は、科学や勉学というとものが子どもにとって縁遠かった時代です。それに親しむための窓口という存在になったのが、学研の学習と科学でした。雑誌をリーズナブルに提供することで経済的なハンディキャップを解消し、多くの子どもたちにとって、学問の世界への架け橋となったのです。

 子どもたちを引き付けたのは、編集者たちの「学びとるチカラを高めてほしい」という良心的な思いであり、それが戦後の出版史でも傑作の1つといわれる雑誌を生んだ原動力だったのかもしれません。

【参考書籍】
・大人の科学マガジン編集部『もう一度見たい!「科学」と「学習」』学習研究社
・塩澤実信 小田光雄『戦後出版史―昭和の雑誌・作家・編集者』論創社
学研映画の歴史

【T】

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