ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
「デリバティブ」という名前を聞くと、ハイリスクで危険な金融商品を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
デリバティブとは、株価指数や国債、通貨、金利などを基準に価値が決まる金融派生商品のことです。確かに、中には元本以上の損失を被る金融商品もあります。その一方で、中小企業が事業で抱えるリスクを軽減したり、収益を安定させたりするための有効なツールとして活用できるものもあります。
今回は、デリバティブで失敗しない賢い利用法を考えてみます。
銀行には、「証券仲介業務」という機能があり、さまざまな金融商品を購入することが可能です。例えば、デリバティブを利用した「仕組み債」(債権とデリバティブを組み合わせることで、一般的な債権にはない特別な仕組みを持った債権)といった商品も購入できます。
社債や外国債券、投資信託といった金融商品は、いわば既製服のようなもので、購入する投資家のニーズを必ずしも細かく反映しているとはいえません。「もう少し利回りは低くてもよいから、リスクを抑えてほしい」、「リスクを覚悟で高い利益を得たい」といった細かいニーズには応えることができません。それに対し、証券仲介業務で取り扱う仕組み債は、投資家のニーズを聞きながら、債権とデリバティブを組み合わせることで、オーダーメードで作れるのです。
より具体的な例で考えてみましょう。海外から原材料を輸入し、加工して大企業に販売している中小企業のケースです。こうした中小企業では、海外からの仕入価格をできるだけ低く抑えようと努力します。その仕入れコストを大きく左右するのが、為替レートです。つまり、長期間、できるだけ安定的に米ドルを調達することは大きな意味を持ちます。
このような中小企業のニーズに対し、デリバティブを利用した商品を利用することで、リスクを回避した安定運用ができる可能性があります。
こうした目的で利用できる仕組み債として、金融業界で「フラット・ボンド」と呼ばれる商品があります。フラット・ボンドとは、二国間の金利差を利用して、金利を放棄する代わりに、スポット価格(現物取引の市場で成立する取引価格)よりも安価で外貨を調達する仕組みです。
2016年12月、ドル・円レートは日米の金利差を背景に大きく上昇しました。一時は1ドル117円台まで円安が進みましたが、この時に「フラット・ボンド」を利用しておけば、以降20年にわたり、約89円台で米ドルを調達する仕組みを構築することも可能でした。
「リバース・フローター債」という商品もあります。これはデリバティブの仕組みを利用して、市場金利が低下するほど、投資した側の受け取る金利が増えるという仕組みです。これにより、預金金利が下がった時でも、金利収入を補うことができます。
現在、デリバティブは一般企業だけでなく、学校法人や宗教法人、医療法人や社会福祉法人といった組織が利用するケースも多く見られます。公共性の高い組織は、多額の資金をできる限り低いリスクで安定的に運用したいというニーズがあり、金利が下落してもその影響をある程度回避するためにデリバティブを導入しているのです。
しかし、デリバティブも万能ではありません。「生兵法はけがのもと」(中途半端な知識が失敗を招く意味)ということわざがありますが、デリバティブにも同じことがいえます。
そもそもデリバティブとは、株式や債券、為替から派生してできた取引であり、先物取引やスワップ取引(固定金利と変動金利、円と外貨を交換する取引)、オプション取引(将来、あらかじめ約束した価格で売買する権利の取引)を利用します。こうした仕組みを利用すれば、高い利回りの債券を作り出すこともできます。デリバティブを使った仕組み債の中には、高いリスクを取って利益をさらに上げることを狙っているケースも見られます。
しかし、その代償として、リスクが現実化して損失が発生するケースもあります。投機的なデリバティブ取引に失敗して、莫大な損失が発生したことが、かつてニュースで大きく取り上げられました。
兵庫県朝来市は、2008年のリーマンショック前後に購入した仕組み債で、証券会社や銀行を相手に訴訟を起こしました。83億円もの仕組み債を購入していましたが、為替相場で円高が進み、多額の評価損(購入時と比べて価値が落ちること)が発生したことから、販売した証券会社や銀行に対し4億8666万円の損害賠償請求を起こしたのです。
この訴訟は、その後円安が進んで、購入元本を3億円ほど上回る利益が得られることとなったため、取り下げられました。販売した金融機関が悪いのか、それとも安易に多額の仕組み債を購入した朝来市が悪いのかという議論はさておき、最終的には利益が得られたとはいえ、これは典型的な“失敗例”といえるでしょう。
これは、先に挙げた外国との取引が前提の中小企業が、事業を安定させるためにデリバティブを利用するのとは意味が違います。投資資金の公共性を考えれば、高い金利を狙ったデリバティブ投資には疑問が残ります。
中小企業にとってデリバティブは、事業のリスクを軽減するために使うべきだと考えます。あくまでもリスク回避を主眼に置き、デリバティブの仕組みについて正しい知識を得るとともに、リスクの所在を認識することが大切です。
リスクの回避が目的の場合、将来のリスクをどう考えるのか経営者としての判断が、デリバティブを考える際に非常に重要です。将来の為替レートがどうなるのか、その場合に事業に悪影響はないのか、それをデリバティブで軽減できないかといった考え方です。もちろん為替レートの見込みが外れた際、デリバティブを利用した結果、デメリットが生じて会社が傾くことがないようにも配慮しなくてはなりません。
銀行には証券仲介業務を取り扱う部署があり、そこにはデリバティブを扱うプロがいます。彼らの存在は地味で目立たないものですが、話を聞いてみると、これまでとは違った銀行との付き合い方が見えてくることもあるでしょう。
銀行をただ「預けるだけ」「借りるだけ」としてしか利用しないのは、もったいないことです。「デリバティブを扱う部署の人間を紹介してほしい」、その一言で、銀行との付き合い方が大きく変わるかもしれません。
執筆=南部 善行(studio woofoo)
1991年、関西学院大学経済学部卒業。同年、地方銀行に入行し、長年にわたり地域に密着した経済活動を支援。支店勤務では営業統括部門の責任者として経験を積む。資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を生かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。その他、豊富な実務経験を生かし現在は不動産、相続対策など、関連分野においてフリーのライターとして活動している。
【T】
金融機関を味方にすれば企業は強くなる!