金融機関を味方にすれば企業は強くなる!(第1回) 給料から家族構成まで…「知り過ぎている」銀行員

資金・経費

公開日:2016.09.30

 保険会社、証券会社、そして銀行。これらの金融機関と一切取引がない、という人はまずいないでしょう。大企業も、中小企業も、そして個人もさまざまな金融機関と何らかの取引があるはずです。

 取引は互いにフェアな関係で対等であるべきですが、現実には金融機関、中でも銀行は圧倒的に有利な立場にあることをご存じでしょうか。なぜなら、銀行員は“あらゆることを”知っているからです。そうした銀行といかに付き合っていくべきなのか。今回は、「知り過ぎている」銀行員の手の内を教えます。

銀行員には「お金がない」が通じない

 「銀行は良いですよね」

 私が銀行に務めていた頃、証券会社や保険会社の営業担当者と話をすると、決まってそう言われました。このセリフは彼らの偽らざる本音かもしれません。証券会社や保険会社は、銀行よりも「顧客に断られやすい」からです。それでは、証券会社や保険会社が羨む銀行の優位性の源泉はどこにあるのでしょうか。

 営業担当者にとって最も厄介な断り文句は、「お金がない」という一言です。どんなに優れた商品であっても、どんなに優秀な営業担当者であっても、お客様がお金を持っていなければ商品を売ることができません。「お金がない」という言葉は、最強の断り文句なのです。

 証券会社や保険会社の営業担当者は、しばしばこの最強の断り文句に商談を阻まれます。証券会社の営業担当者が、どんなに値上がりの見込める株を勧めても、保険会社の営業担当者がリターンの大きい保険を販売しようとしても、「業績が悪くそんな余裕はない」と断られてしまえば、それ以上はなかなか言い返せないのです。

 ところが、銀行員に対しては、「お金がない」「業績が悪い」という最強の断り文句は通用しません。銀行員は、貯金の残高が分かっていますから、簡単に顧客の懐具合を判断できます。そればかりか、お客様にとってベストなタイミングで金融商品を提案できます。証券会社や保険会社では、本当にその顧客が自社製品を購入するだけのお金を持っている人なのかどうかを、預金残高以外の情報から見極めるしかありません。「銀行は良いですよね」と言われる理由がお分かりいただけたと思います。

預金口座で分かるのは預金残高だけではない

 ビッグデータという言葉が使われるようになって久しいですが、銀行は圧倒的で、しかも質の高い「預金残高」という最高のビッグデータが入手できます。さらに、高性能のコンピューターでデータを解析する必要もありません。銀行員としての業務経験があれば、口座の動きからさまざまな情報を読み取ることができます。

 まったく銀行の預金口座を持っていない人や会社は、まず存在しないといっていいでしょう。給料、商取引、年金受給からクレジットカードの引き落としに至るまで、ほとんどすべてのお金の取引は、銀行口座を介して行われます。つまり単に口座の残高が多い、少ないだけが判断材料ではありません。銀行口座の動きを見れば、顧客の勤務先、収入はすぐに分かるのです。

 それだけではなく、固定資産税の引き落としがあれば、どれくらいの不動産を所有しているのかも類推できます。学費の引き落としがあれば家族構成を、クレジットカードやさまざまな引き落としの内容から、生活をかなり正確に想像することができるのです。さらに言えば、どのATMで現金を引き出したかを調べれば、顧客の行動範囲まで見えてくるのです。

 もう1つの「業績が悪くそんな余裕はない」という断る理由も同様です。業績の良しあしは、銀行口座の入出金、残高である程度判断できます。しかも、企業経営者は、銀行担当者に対して、この断り文句は非常に使いにくいのです。本当に業績が悪ければ、新規融資や借り換えを拒否される恐れがあるからです。

「知り過ぎている銀行員」とどう付き合うか?

 では、知り過ぎている銀行員とはどのように付き合っていくべきなのでしょうか。銀行員に下手な小細工は通じません。ベテラン銀行員は口座の動きから情報を集め、それをつなぎ合わせて実態を浮かび上がらせます。刑事ドラマで、刑事が殺人現場に残されたわずかな痕跡から犯人像をつくり上げていくシーンが登場しますが、銀行員も同じなのです。

 銀行とは正直に直球勝負するのが最善です。銀行に対して何を求め、銀行の提案についてどう感じたか。何が足りないのか。お互いに本音を話せば、より良い関係が築けるはずです。実態はすでに丸裸なのですから、銀行との交渉で腹の探り合いをやっても時間と労力の浪費に過ぎません。遠回りしても、お互いに答えは分かっているはずです。

 折しも銀行は、融資の判断を金融庁のマニュアルに依存した体制から、事業性を評価する方針へと方向転換を図ろうとしています。そして監督官庁である金融庁自体も、かつてのような不良債権処理に重点を置いた金融政策からの脱却を図ろうとしています。

 「知り過ぎている」銀行員を相手に小手先のだまし合いに時間と労力をかけるよりも、事業の本質について真っ向から議論することの重要性を互いに認識しなければならない時代がやって来ています。今こそ、取引先企業と銀行は、互いに新しい時代のパートナーシップを構築する良いタイミングだと思います。

執筆=南部 善行(studio woofoo)

1991年、関西学院大学経済学部卒業。同年、地方銀行に入行し、長年にわたり地域に密着した経済活動を支援。支店勤務では営業統括部門の責任者として経験を積む。資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を生かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。その他、豊富な実務経験を生かし現在は不動産、相続対策など、関連分野においてフリーのライターとして活動している。

【T】

あわせて読みたい記事

  • 個人事業主・小さな会社の納税入門(第30回)

    年の途中で個人事業主から法人化した場合はココに注意!

    資金・経費

    2025.02.04

  • 税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第110回)

    厳しさ増す消費税調査、AI導入と体制見直しが影響か

    業務課題 経営全般資金・経費

    2025.01.16

  • 個人事業主・小さな会社の納税入門(第29回)

    「期末商品棚卸高」の計算にはご注意を!

    資金・経費

    2025.01.08

連載バックナンバー

金融機関を味方にすれば企業は強くなる!