ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
山下惠助代表取締役社長。1991年、専修大学経済学部卒業。その後、米国のカリフォルニア州立大学へ留学。95年、有限会社シーズ入社。2000年、有限会社ノイエを創業、代表取締役に就任。08年、ノイエをクロス・メディア・ネットワークス株式会社に変更。現在に至る。
次々とデジタルサイネージの活用法を提案するクロス・メディア・ネットワークス(以下CMN)の発想は、山下代表の妄想から始まるという。そんな同社の次の狙いは自動販売機だという。
近江商人の心得として「三方よし」という言葉が知られている。「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の3つを指し、売り手と買い手が共に満足し、世間からの評判も良いのが優れた商売だという考え方だ。CMNではさらに「従業員よし」「株主よし」を加えた「五方よし」を企業理念に掲げている。
この「五方よし」の理念が大切だと山下代表が痛感したのは、16年にタイを訪れたときだという。タイは華僑系や欧米系の企業の進出も盛んな激戦区だ。
「そんな中で勝ち抜いていくには、地元の財閥など、有力者とつながりながら事業を営む必要がある。ただ売ればいいわけではない。『内輪』、つまり従業員や出資者との関係性を大切にしないといけない。そう実感しました」
システムエンジニアをはじめとする技術系のスタッフは、自分とは明らかに考え方が異なる。そんなスタッフと、価値観を合わせて働く上で役に立ったのがタイで感じた「五方よし」の考え方だった山下社長は語る。現在では、10人のシステムエンジニアがCMNの開発現場を支えている。
「システムエンジニアの仕事はあくまで、製品を作ることです。ビジネスのゴールはその製品を使って社会に影響を与えることです。その感覚の違いを埋めるには、命令だけではダメで、良好な関係を築く必要があります。五方よしの考え方を何度も伝えながら仕事を進めていきました」
デジタルサイネージのハードウエアは、1台数十万円の金額で提供している。サイネージだけを販売している企業と比べれば、倍以上の金額だ。高価なハードウエアをネットワークに接続することで、さらに月々の運営費用が発生する。運営費用の中から、アライアンスを結んでいる他社企業にサーバー利用料などが入るビジネスモデルになっている。
顧客にデジタルマーケティングの思考がない場合は、デジタルサイネージのハードウエアを購入し、映像データなどをUSBメモリに入れてデジタルサイネージに挿して、単なる電子看板としてだけ使うこともある。CMNが想定しているようなマーケティング施策にはとても及ばない、もったいない利用方法ではあるが、現実にそのような使われ方もしているという。
とはいえほとんどの顧客は、マーケティングによる課題解決を視野に入れて契約する。モニター単体なら、コスト的にもっと安価な企業は存在する。それでも、その先のマーケティングでの活用を視野に入れて、CMNと契約する企業が増えている。
次々とデジタルサイネージの活用法を生み出していくCMNのアイデアはどこから出てくるのか。山下代表は「最初は自分の妄想。うまくいきそうだなと思ったら、特許を取るところまでつくり切ってしまいます。そこから初めて、社内の技術者と相談して、技術的に実現可能なのかどうか、どれくらいの時間と費用が必要かを考えます。おおよそ出そろったら、提案書にまとめて私が中心になって売り歩きます。それで、興味を持ってくれたところとアライアンスを組んで開発を始めるという流れです。最終消費者の目線からは分からなくても、裏側の技術はすべて手作りです」と説明する。
そんな山下代表がこれから狙っていくのは、自動販売機だ。
「日本には、飲料を売る自動販売機だけで約250万台あります。全国のコンビニの店舗数が5万~6万店ですから、その40~50倍の規模です。インフラとして非常に大きな数字ですが、今まで、マーケティングに活用されることはほとんどありませんでした。これらを通販サイト、LINEなどのSNSとつなげられれば、媒体としての影響の大きさは明らかです。でも、そんな世界で何が起こるのか、それはまだ分かりません。2020年には東京オリンピックがあります。そこで大きな勝負ができると考えています。そこで今は、積極的に商品開発に資金を投じています。これからのCMNはもっと面白くなりますよ。私たちの目標は、顧客の生産性向上です」
産業別で我が国のGDPの70%を占める日本のサービス業の生産性は、米国のサービス業を100とすると、49.3にとどまっています。現在の国内市場において技術進歩による生産性の向上は大きな成長が見込めます。CMNは、IoTとデジタルサイネージの融合によるサービス業の生産性向上を究極の目標にしています。
CMNのデジタルサイネージを、自販機メーカー大手の製品に組み込むプロジェクトも動いているという。大手に実力を認められれば、普及はあっという間に進むだろう。
MORIBE’s EYE
IoTをデジタルサイネージに融合させた九州の発明家。技術オタク気味なので、IoTの機能拡充からコンテンツ、保守、メンテナンスなどを網羅。ハードとソフトの一気通貫を実現。九州から北海道に展開し、とうとう東京に上陸。今後の成長が楽しみ。楽しみ。※情報は記事執筆時点(2017年7月)のものです
執筆=森部 好樹
1948年佐賀県生まれ。東京大学を卒業後、旧日本興業銀行に入行。香港支店副支店長などを経て興銀証券へ出向。ビックカメラで取締役を務め、2002年、格安メガネチェーン「オンデーズ」を設立し社長に。2007年共同広告社に移り、2008年同社社長に就任。2013年に退社して独立し、顧問業を専門とする会社、ロッキングホースを創業。現在代表取締役。
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