ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
連載3回目は、前田社長が大手メーカーと中小企業を結ぶマッチングサービスを発想して、実現にこぎつけるまでのプロセスを紹介します。問題意識の持ち方、それを具体的なビジネスにつなげる行動は新規事業を手掛ける上で、大きなヒントになるはずです。
福井県で生まれ育った前田社長。スポーツが好きなやんちゃな少年だったといいます。中学生の時はバドミントン部のキャプテンを務めました。起業志向は特になかったといいますが、稲盛和夫氏を崇拝し、京セラへ入社しました。「今もビジネスをする際に大事にしている利他や感謝の精神は稲盛さんに教わったものです」と前田社長は話します。
京セラには約6年間勤務しました。やがて大企業の中で自身の仕事に意味を見いだせなくなり、もう少し社会にインパクトを与えるような仕事をしたいと考え退職を決意します。
「昔からずっと、誰にでもできるような仕事はしたくないという思いがありました。頭でそう考えるというよりは、体が無意識に動くんです」と前田社長は京セラを辞めたときのことを振り返ります。
1年半後、前田社長は大手コンサルティング会社の野村総合研究所に入社し、買収戦略を担当します。このときに感じたことが、現在のLinkersのビジネスモデルへとつながっていくのです。
「エネルギー産業での買収戦略をずっと担当してきました。その上で重視してきたのは、それぞれのバリューチェーンにおけるプロフィットプール、つまり、1つの業界に関わっている会社の利益の総和です。例えば、太陽光発電関連の業界なら、太陽光発電のパネルメーカー全社の利益を合算し、パネルの素材メーカー全社の利益を合算して、全体のプロフィットプールを算出します。すると、業種によって利益の配分が異なることが見えてきました。例えば太陽光発電ではパネルメーカーは数千社ですごく小さな利益を奪い合っています、一方でファイナンスでは10社くらいで何兆円という利益を上げています。それがすごく不公平だと感じたんです」(前田社長)
「一生懸命頑張って数千億円投資して、ようやく微々たる利益を出しているのが材料メーカーやパネルメーカーなんです。そういった意味で、私は日系のパネル業や製造業の企業に対しては、ファイナンス業務に参入するようにとずっと提言してきました。そういう買収戦略によって、平準化すること、本当に頑張ったものがそれに見合った利益を得るという業界をつくりたかったんです」と前田社長は振り返ります。
なぜ日本のものづくり企業がバリューチェーンの利益の少ない部分をわざわざ取り合っているのか。それは、業界の全体像が分かっていないからだと指摘します。
「なぜ全体像が分からないかというと、流動性がないからです。人材の流動性がなく硬直化しているので、材料メーカーの人はファイナンスやシステムのことを知らない。逆もしかりです。だから、バリューチェーンの間にある縦のカベを完全に打ち払って、違う業務や技術を担う人同士がうまくコミュニケーションできる世界をつくりたいんです」(前田社長)
前田社長はこの時から「日本のものづくり産業を変えたい」という強い思いを持つことになります。太陽光発電のみならず、300業界ほどのバリューチェーンを2〜3年かけて分析したといいます。
リサーチから始め、事業戦略をつくり、買収先を探し、ファイナンスの事業価値を評価するところまですべて前田社長は実践していました。「事業戦略だけでは意味がないと考えたらもう体が勝手に動いて買収戦略までやっていたんです」と前田社長は話します。
野村総研での数年間、ひたすら製造業のあるべき姿を思い描いてきた前田社長にジレンマが襲います。1社の買収戦略に1年以上が費やされる現実。「これではいつまでたっても日本のものづくり産業を変えることはできない。何か仕組みをつくらなければ」と考え、2012年、自身で会社を興すことを決意しました。
最初に着手したのはビジネス向けのSNSでした。しかしこれはうまくいかず、2カ月ですぐに撤退を見極めます。
人ではなく企業に特化することを考え、次に立ち上げたのが、大手メーカーも中小企業もすべての会社が登録できるウェブの展示会場「eEXPO(イーエキスポ)展示会」です。このサービスは現在も継続しており、約1400の技術や製品が登録されています。
当時はまだ前田社長1人だけの事業でした。「eEXPO展示会」を発展させるためにレバレッジを掛けなければと考え、このときに産業支援機関との連携を思い付いたといいます。
「ちょうど震災が起こった後だったので、復興支援から始めたいと考えました。東北の産業支援機関に30機関くらい電話しましたが、ほとんど断られました。しかしその中で1つだけ、東北経済連合会という団体が興味を示してくれたんです。それですぐに訪問して何度か交渉し、3回目くらいで業務提携が決まりました。中立団体である経済連合会が民間企業と業務提携するのはかなり異例のこと。それだけ当社の思いに共感してくれたのでしょう」と前田社長は話します。
そこから前田社長は東北経済連合会の担当者と一緒に東北の中小企業300社を回りました。「300社の技術や製品をバリューチェーンに登録していきました。1年ほどかけて、1社につき3時間くらい議論して、夜9時くらいまで毎日複数社を回りました。冬の凍える中、秋田県でレンタカーを借りて走り回ったこともありましたよ」と前田社長。
現在「eEXPO展示会」に登録されている中小企業の9割はコーディネーターに紹介してもらった企業だといいます。「でも、こうしてウェブ展示会場にいろいろな製品を登録すると、コーディネーターの人たちに情報が少ないのではないか、と言われたんです。この会社だったらもっとこういうこともやっているよ、と。一方で、中小企業に聞くと、そういうことはあまり出さないでほしい、と言うのです」
このときに前田社長はコーディネーターの頭の中にかなり詳細な情報があることが分かったといいます。そこで、機密保持契約(NDA)をきっちり締結した上で、コーディネーターを軸に、プロに目利きされた企業だけを登録するマッチングサービス「Linkers」の構想が生まれたのです。
日経トップリーダー/森部好樹
執筆=森部 好樹
1948年佐賀県生まれ。東京大学を卒業後、旧日本興業銀行に入行。香港支店副支店長などを経て興銀証券へ出向。ビックカメラで取締役を務め、2002年、格安メガネチェーン「オンデーズ」を設立し社長に。2007年共同広告社に移り、2008年同社社長に就任。2013年に退社して独立し、顧問業を専門とする会社、ロッキングホースを創業。現在代表取締役。
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