ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
仕事を楽しめば成果も上がる「フロー理論」と、会社を変えるために必要な「共同体感覚」が高次元で両立すれば、個人が仕事を楽しめる一方で、業績の上がる会社に変えることができる。
第1回では、往年の名投手・江夏豊の逸話から、フロー状態と共同体感覚は両立すること、そして、フロー状態を創り出せる人間は同時に共同体感覚をも兼ね備えている、という説を述べた。
今回はフロー状態と共同体感覚の両立について、更に生物学的な見地から検証していく。
共同体感覚は、自分への執着を他人への関心に切り替えることが必要であった。すなわち、決して利己的にならず、利他的であることと言い換えられるだろう。
利他的(利他性)とは、理性や心、優しい感情、道徳知識を持つ高度に進化した人間ならではの特性であるように思われる。しかし、実際はそうではない。実例を元に考えると、そのことが容易に理解できる。
たとえば、アリやハチは、自分の子ではなく、女王アリや女王バチの子を育てるために、働き者の代名詞になるほどせっせと働く。そればかりか、子を育てている巣を、外敵から自分の身を犠牲にしてでも守り抜くことが知られている。
こうした利他的な行動は昆虫のみならず、ライオン、シャチ、ベルベットモンキー(アフリカ大陸に生息するサル)など、さまざまな動物にも確認されている。
ダーウィンの進化論で周知の通り、我々人間もまた、他の生物と同様に唯一の生命体から進化し続けてきた結果に他ならない。もちろん人間の脳も同じである。人間の脳の構造は、大きく分類すると爬虫類脳、旧哺乳類脳、新哺乳類脳に分類することができる。簡単に紹介すると、以下のように説明される。
(1)爬虫類脳……心拍、呼吸、血圧、体温などを調整する基本的な生命維持の機能
(2)旧哺乳類脳……個体の生存維持と種の保存に役立つ快・不快の刺激と結びついた本能的情動や感情、行動につながる動機を生起させる機能
(3)新哺乳類脳……言語機能と記憶・学習能力、創造的思考能力、空間把握機能など高次の脳機能
人間の利他性は、新哺乳類脳で言語化されたことではじめて生まれたものではない。それ以前に、生命維持機能として、爬虫類脳や旧哺乳類脳で自己保存するためには集団を保存するのだとDNAに刻み込まれているのだ。利他性は、アリやハチたちと同様に生命維持機能として、無意識レベルで備わった能力なのである。
自然界は、自らの欲求を最大化させることのできる強い者が生き残る弱肉強食的な側面がよくクローズアップされるが、それらは同時に、人間を含めた社会的生物においては利他性に優れた者でもあるのだ。
昆虫と同様に、私たち人間は本能的に利他性を発揮できる。人間だけのより高度な、理性や考察、判断ももちろんあるが、それらは本能的な部分から進化し、より発展した姿と考えればなお理解し易い。本能的な社会性、利他性を進化した脳が、宗教や道徳、理念や理性として発展させてきたのだ。
一般的には、人間固有のものと思われているこうした道徳的な感性もまた、本能的なものから進化した結果なのである。
人間のこうした利他性によって、全体のまとまりを築こうとする働きは、さまざまな場面で確認することができる。もっとも代表的なものが宗教であり、そこには愛や慈悲の心などが謳われている。また、文化的な形を装い、親から子へ語り継がれる物語や唄、諺などによって時代を超えて継承されており、学校や家庭においては、道徳的な教育が施されている。
中でも、人間としての利他性を全体として共有しようとする働きかけとして、最も大きな力を発揮しているものが宗教だ。その力の大きさ故に、中東では未だ戦争が絶えないほどである。
しかし、日本人は無宗教と言われる。特定の宗教を持たない民族であるからだ。宗教を持たない日本人は、国民性として、利他性の浸透度は低いのであろうか? いや、そうではない。むしろ逆に、日本人の優しさや社会性は世界的にも評価されている。では、日本人はどのように利他性を育んでいるのであろうか。
日本人は、無宗教であると同時に、多神教とも言われる。特定の宗教を持たない代わりに、クリスマスに教会に行って祈りを捧げたかと思うと、一週間もしないうち神社にお参りし、無節操に色々な宗教を受け入れる寛容さを持っている。一神教が故に戦争まで発展してしまう国とはまさに正反対と言える。
こうした海外では見られない日本人ならではの特性に着目する大阪大学人間科学研究科の稲場圭信准教授は、日本人には「無自覚の宗教性」が備わっていると唱える。だからこそ、阪神淡路大震災や東日本大震災においても、みんなで助け合うことができるのだ。日本人には日本人らしい利他性を持って、個人の幸せと全体の活動を両立させる能力が備わっているのだ。
第2回は、人間には、生物学的に無意識のレベルで利他性が備わっており、より人間的な高次の意識のレベルにおいても利他の心が育まれていることを確認してきた。次回は、利他性と実践的なビジネスとの関係について考えていく。
執筆=峯 英一郎(studio woofoo)
ライター・キャリア&ITコンサルタント。IT企業から独立後、キャリア開発のセミナーやコンサルティング、さまざまな分野・ポジションで活躍するビジネス・パーソンや企業を取材・執筆するなどメディア制作を行う。IT分野のコンサルティングや執筆にも注力している。
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