ケーススタディー シゴトに生かすDX(第3回) 現場の負担や属人化解消にデジタルツールが大活躍

IT・テクノロジー デジタル化

公開日:2024.08.30

 定型業務を続けていると、人間は意図しない形でミスを犯すことがある。どんなに気を付けていても、慣れたり疲れたりすると集中力が落ちるためだ。また、ある業務が特定の人にしか処理できなくなると属人化が起きることもある。これが専門性の高いスキルを要する業務だとなおさら。その人がいないと「業務フローが進まない」「作業の仕方に問題がありそうでも“部外者”から指摘がしにくくなる」などが起こる。企業内で、今はうまく回っていると思う業務であっても、こうしたミスや属人化のリスクは避けられない。

AI OCRやRPAで自動化・省力化して業務改善

 社内の業務改善はDXの成果の1つだ。デジタルツールを定型業務で上手に活用すればミスが少なくなり品質向上にも寄与する。また、属人化しがちな業務も、内容を棚卸ししてデジタルツールの活用を推進すれば、効率化・自動化できる可能性は高い。デジタルツールの上手な活用は、業務効率化などを実現するための方策として忘れてはならない視点である。

 実際、従来ならば人手で処理することが不可欠だった作業が、昨今のデジタルツールの高度化・高性能化で自動化しやすくなっている。代表例としては、紙の書類からシステムへの転記作業や複数のシステム間のデータ連係や移行作業などが考えられる。これまで、多くの企業では各種申込書や発注書、請求書などは、郵送やファクシミリで送信された書面などを原本としていた。業務システムはデジタル化しても、書面のデジタル化には人手が必要だった。特に、「手書き」の書面判別は“特殊技能”を要することもあり、「◯◯工業さんの請求書は、△□さんでないと読めない」といった形で属人化の原因になることもしばしばだった。

 また、売上管理システムから必要な情報を抜き出して週次、月次の販売管理リポートを作る作業も慣れと経験が必要になる。経営陣が意思決定するためのリポート作成が、特定人材の忙しさに左右される状況も避けたい。例えば、書面をデジタル化する業務は、読み取り精度が高まったAI OCRの活用が有効だ。書面をスキャンしたデータを用意すれば、自動的に文字を読み取りデジタルデータに変換できる。そして、AIの力を借りることで手書きのクセ字などの認識率もぐんと向上して、使い勝手も良くなってきた。その他、パソコン上で異なるシステムやソフトの間のデータ連係や転記はRPAに任せることもできる。定型的な処理であれば、ミスも疲れもなくRPAが淡々と繰り返して作業を進めことができる。

 DXといっても、大掛かりな投資をして社内システムを大改変するような必要はない。目先で業務に非効率な点を洗い出し、その業務に適したデジタルツールを当てはめていけば、第一歩を踏み出せる。データやプロセスがデジタル化されていれば、業務を標準化したり、他のシステムと連携したりといった次のステップが容易になるメリットもある。

DX先進事例にみるAI OCR、RPA活用

ケーススタディー(1):A社の場合(運輸業)

 人材不足や物流の2024年問題に直面する運輸業。A社でもこうした課題とともに、企業の成長にはDXが不可欠と判断し、取り組みを進めてきた。「物流×テクノロジー」で物流イノベーションを創出することを目的した取り組みである。業務のデジタル化やデータ連係による業務プロセスの改善の一環として、A社はAI OCRを利用した受注入力システムを導入した。

 AI OCRの導入で、ファクシミリで受信した発注書の入力作業を自動化し、属人化の解消とミス削減を実現した。こうしたデジタル化の取り組みの積み重ねにより、業務プロセスの可視化が実現して効率的な輸配送が可能になった。

ケーススタディー(2):B社の場合(工業製品卸売商社)

 DXによる新しい付加価値の提供を目指していたB社。同社では組織を横断した人員で構成したDX推進チームが中心になって、社内DXを推進した。「営業DX」「業務DX」「総務経理DX」「倉庫DX」の4つのテーマが対象になった。このうち、業務DXでは、AI OCRの導入促進と、RPA活用推進による業務効率化を目指した。当初は業務プロセスを変えることに抵抗がある社員も多かったが、成功事例を共有しながら対応策を検討して地道に取り組みを進めた。この結果、DX推進チーム発足から2年目にはAI OCR稼働件数は前年比で約3割近く増加し、売上増加の成果などが得られた。

ケーススタディー(3):C社の場合(不動産業)

 マンションの企画・開発・販売などを手掛けるC社は、デジタル技術を使って不動産に新しい価値を創造することをビジョンに据えた。AIを活用した適正賃料生成モデルの構築などに取り組む他、ノーコードツールやRPAを活用した業務効率化も進めた。RPA導入では、現場のスピード感と企業としてのガバナンス確保の両立を目指すために、他社の成功事例をインプットするなどの施策を実施した。DX推進では、現場と情報システム部による共創の形態を整備し、ノーコードツールとRPA活用によるグループ全体の工数削減では、年間8000時間を超える大きな成果につながった。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=岩元 直久

【MT】

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