ケーススタディー シゴトに生かすDX(第1回) 「属人化」や「業務負荷の偏り」なくす業務プロセスの可視化

IT・テクノロジー デジタル化

公開日:2024.06.28

 業務はルーティン化すればするほど、重要性や意味がわかりにくくなったり、負荷の偏りが見えなくなったりしがちだ。ある業務を過去に最適化しても、その時点から時間がたてば事業環境もITを含めた業務効率化のツールも変化している。その間に、歴代の担当者が自分にとってのベストな方法を開発し、それが代々引き継がれることも起こる。こうなってくると、「なぜ今この業務を、この方法で処理しているのか」の根拠すらわからなくなる。

日々の業務の中で発生しがちな「属人化」や業務負荷の偏り

 すでに退職している先輩方の当時のベストプラクティスを引き継ぐ必要などないかもしれない。ここまで極端ではないにしても、業務は往々にして属人化したり、負荷が偏ったりしていくもの。最初は「Nさんが業務Xの新しい方法を見つけて、効率が良くなったんだって」と評価されて皆が喜んだとしても、業務Xは知らず知らずのうちに他の人が手をつけにくくなり、ノウハウも落とし所もNさんにしかわからなくなってしまう。

 そのうち、業務XはNさんおよびNさんの後継者になったMさんの専権事項のようになり、負荷の偏りが当たり前のように常態化する。誰にも悪意はないのに、ルーティン化のつぼの中に落ち込んだ業務をチームの他のメンバーがすくい上げられなくなってしまう。

 特殊な業務の属人化や負荷の偏重ならば、それでも誰かの双肩にかかっている状況は比較的明るみになりやすい。しかし、企業や組織には業務が星の数ほどある。それらの多くの業務についても、ルーティン化が進むと同様に実情は把握しにくくなる。気づかないうちに、ある業務が特定のメンバーにだけ割り振られるようになっていたり、そのせいで労働時間を割かれるようになっていたりするのだ。困ったことに、よほどの残業時間増加などの影響になってこないと、個々のメンバーの頑張りなどで現場の解決が図られてしまう。業務の実情は顕在化しにくい……。

 こうした業務の属人化や偏在化のリスクを抑えるには、まず業務がどのような状況で進んでいるかを「可視化」する必要がある。どの業務を誰がどれだけの時間をかけて遂行しているのか、もっと根源的にはどのような業務が行われていてそれは今後の事業にどのような必要性があるのかといったことをつまびらかにしていく。

 その上で可視化した情報を部署内、全社で共有することで、業務の必要性と最適化を再考するきっかけを作る。常に業務が可視化されていれば、ビジネス環境などの状況の変化に対してもタイムリーに業務の変革を行える。その業務の可視化から最適化までをデータやツールのデジタル化によって実行していけば、立派なDX(デジタル改革)になる。

DXには大きな可能性。自社の業務を精査して意欲的に取り入れる

ケーススタディー(1):A社の場合(ソフトウエア業)

 例えば、ソフトウエア業のA社では、コロナ禍で社員が何日も出社できない状況に直面し、在宅勤務でどのように業務を回すかを緊急事態対応として検討した。そこで必要だと考えたのは、「会社を存続させるためには、仕事のやり方をすべて変える」ことだった。

 デジタル技術を活用して組織生産性を向上させると同時に、デジタル技術を使った社内外への情報発信の強化、DX人材の育成などが求められた。A社は各種データを可視化しクラウドストレージで共有することで、出社できなくても業務を回せるよう生産性向上に取り組んだ。その結果、ハンコが不要になり、紙の使用量をほぼ半減させた他、電力の使用量も2割近く減らすことができた。当初の緊急事態対応としても、半数以上の社員がテレワークで業務を行えるようになる成果を得た。

ケーススタディー(2):B社の場合(ガス・エネルギー業)

 ガス・エネルギー業のB社では、業務の属人化を撤廃するDXを実施した。2025年問題の1つである働き手不足に備えたDXの取り組みである。B社では従業員の約2割が60歳以上で、業務が属人化しがちな上に、デジタルなど新しい取り組みに対して保守的という傾向があった。

 まず、DXの必要性について従業員が腹落ちするまで説明を繰り返し、全社員のマインドセットの変革を実施。その上でデータを常に現場から収集して可視化できるようにしたことで、従業員もデータを基に多様な視点から意見を上げられるようなった。DXを通じて業務改革の自分ごと化がB社のカルチャーに仕組みとして組み込まれ、従業員の基幹業務の効率化によって人件費など年間500万円のコスト削減を達成した。

ケーススタディー(3):C社の場合(製造業)

 製造業のC社は、ビジネスモデルの価値向上を急務と捉え、DXを全社に展開することにした。紙の点検表や伝票を電子化することで、集計効率の向上やサービス提供のスピードアップを実現する取り組みである。電子データはビジネスインテリジェンス(BI)ツールで効率的に分析できるようになり、分析の質や量の向上に伴い迅速な意思決定を実現した。その中でも、業務プロセス改善による属人化の解消や進捗の可視化により、効率的な生産管理が可能になったと。

 業務の可視化といっても、実例に見るように可視化の対象や方法はさまざまだ。そうした事例からも、データを分析して業務を最適化していくことがビジネスの持続可能性や成長可能性の向上に役立つことが見えてくる。DXには無限の可能性があるからこそ、自社の業務を精査しながら、小さくても成果をすぐに得られる部分からデータ化や可視化を始めていきたい。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=岩元 直久

【MT】

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