知って得する!話題のトレンドワード(第11回) ポイント解説!スッキリわかる「育児・介護休業制度」

業務課題 経営全般

公開日:2024.02.21

 いま話題のトレンドワードをご紹介する本企画。第11回のテーマは「育児・介護休業制度」です。言葉の意味、そしてその背景や関連する出来事を解説していきます。みなさまのご理解の一助となれば幸いです。

 

 厚生労働省「人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて」には、「人材不足解消のカギは仕事と家庭の両立支援」と書かれています。出産・育児・介護などによる離職を防ぎ、男女ともに仕事と家庭を両立するべく、数々の取り組みが行われています。

 育児休業は、男女の労働者が原則として1歳に満たない子どもを養育するための休業制度で、女性の場合出生後57日~1歳の誕生日の前日まで、男性の場合出生後~1歳の誕生日の前日まで取得できます。また、介護休業は、労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業制度で、対象家族1人につき3回、通算93日まで取得できます。

 これらの制度は仕事と家庭を両立するための両立支援の1つで「育児・介護休業法」に定められています。育児休業・介護休業の他にも、看護休暇や産後パパ育休、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限など、さまざまな制度が設けられています。

関連する出来事などの背景

 「仕事と家庭の両立」は企業の人材不足の解消につながる一方、労働者にとっても出産・子育て・介護などで会社を辞めることなく安定した生活を確保でき、両者にメリットがあるのはもちろんです。

 「育児・介護休業法」(正式名称「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)は、労働者が育児や家族の介護を理由に離職することなく仕事と育児、介護を両立して働き続けられるための両立支援制度です。この制度は、会社規模にかかわらず利用でき、会社に規則がなくても要件を満たせば法に基づいて取得できます。

 まずは、育児・介護休業法において、受けられる制度を確認していきましょう。利用には、要件や手続きが必要で、利用にあたっては情報をよく確認しましょう(育児・介護休業法について詳しくは厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」が参考になります)。

○育児と仕事の両立支援制度
子育て中の労働者は性別にかかわらず利用可能、パートやアルバイトも要件を満たせば利用できる。

・育児休業
1歳未満の子どもを養育するための休業。女性の場合は出生後57日~1歳の誕生日の前日まで、男性の場合は出生後~1歳の誕生日の前日まで取得できる。子ども1人につき原則1回取得でき、分割して2回の取得が可能。保育所に入所できないなどの事情があれば、最長で2歳になるまで延長できる。

・産後パパ育休(出生時育児休業制度)
子どもが生まれてから8週間以内に4週間の休業を取得できる。育児休業とは別に2回まで分割して取得可能。

・パパ・ママ育休プラス
父母ともに育児休業を取得する場合、休業可能期間が延長され、子どもが1歳2カ月に達するまでの間、父母それぞれ1年間まで育児休業を取得できる。

・子どもの看護休暇
小学校入学前の子どもがいる労働者が対象。子どもが1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで、1日または時間単位で取得できる。

・短時間勤務制度
3歳未満の子どもがいる労働者が対象。労働者の申し出があれば、就業規則などで定められた1日の勤務時間を短縮できる。

・所定外労働の制限
3歳未満の子どもがいる労働者が対象。労働者の申し出があれば、会社は所定外労働(残業)を免除しなければならない。

・時間外労働の制限
小学校入学前の子どもがいる労働者が対象。労働者の申し出があれば、会社は1カ月で24時間、1年で150時間を超える時間外労働をさせてはいけない。

・深夜業の制限
小学校入学前の子どもがいる労働者が対象。労働者の申し出があれば、会社は深夜業(午後10時から午前5時までの労働)を免除しなくてはならない。

○仕事と介護の両立支援制度
要介護状態の家族を介護する労働者が対象。パートやアルバイトも要件を満たせば利用可能。

・介護休業
対象家族1人につき3回まで、通算93日まで休業できる。期間中に市区町村、地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへの相談や、家族での話し合い、民間サービスを探すなどで仕事と介護の両立体制を整えるのが望ましい。

・介護休暇
対象家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日まで、1日または時間単位で取得できる。通院の付き添い、介護サービス手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせなどに利用できる。

・短時間勤務等の措置
利用開始の日から3年以上の期間で2回以上取得可能。「短時間勤務等の措置」として、短時間勤務、フレックスタイム、時差出勤、介護費用の助成措置のうち、1つ以上の制度を設けることを会社に義務付け。

・所定外労働の制限
労働者の申し出があれば、会社は所定外労働(残業)を免除しなければならない。

・時間外労働の制限
労働者の申し出があれば、会社は1カ月で24時間、1年で150時間を超える時間外労働をさせてはならない。

・深夜業の制限
労働者の申し出があれば、会社は深夜業(午後10時から午前5時までの労働)を免除しなくてはならない。

 育児休業・介護休業を利用することで賃金が低下する場合、一定の要件を満たすことで「育児休業給付」「介護休業給付」を受けることができます。なお、仕事と家庭の両立のための経済的な支援制度は、社会保険料の免除などもありますので、詳しくは「育児休業、産後パパ育休や介護休業をする方を経済的支援します」を参考にするとよいでしょう。

企業に与えるインパクトは?

 現行の仕事と家庭の両立制度は、2021年6月改正の育児・介護休業法がベースとなっています。大きなポイントの1つには「産後パパ育休」の創設などによる、男性の育児休業取得の促進が挙げられます。男性が育児休業中に主体的に育児・家事に関わることで、その後の育児・家事分担につながる他、女性の雇用継続や希望するファミリープラン(子どもの数など)を実現することにつながります。なお、厚生労働省は「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、子育て男性を応援しています。

 2つめのポイントは、育児休業を2回まで分割取得可能になったこと。1歳以降の延長における育休開始日を柔軟化、特別な事情がある場合の再取得も可能となりました。改正された育児休業と「パパ・ママ育休プラス」や「産後パパ育休」を組み合わせることで、夫婦協力のもとでのよりフレキシブルな育児が可能になりました。

 3つめのポイントは、会社における環境の整備です。会社は育児休業希望の申し出を行った労働者に対し、個別に育児休業制度の周知と休業の意向確認を行うこと、および、男女とも育児休業を取得しやすい雇用環境の整備が義務付けられました。

 それでは、具体的な育児・介護休業法の改正内容を見ていきましょう(詳しくは厚生労働省「育児・介護休業法令和3年改正内容の解説」を参照しましょう)。

○出生時育児休業(「産後パパ育休」)の創設

・男性の育児休業取得促進のため、子どもの出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みとして創設

・従来の「パパ休暇制度」から、対象期間や申し出期限、分割取得、休業中の就業、育児休業給付などを改善

・労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上で休業中の就業も可能

○育児休業の分割取得など制度の改善

・育児休業を2回まで分割取得可能に

・育児休業を延長する場合、開始日を柔軟化、途中での夫婦交代を可能に

・有期雇用(パート・アルバイト)の育児・介護休業取得要件の緩和

・改正をふまえた育児休業給付の規定整備

○育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務付け

・育児休業を取得しやすい雇用環境の整備を事業主に義務付け

・具体的な内容の周知は、研修、相談窓口など複数の手段を選択できるようにする

・環境の整備に当たり労働者が希望する期間を取得できるよう配慮を行う

・従業員1000人超の企業に育児休業の取得の状況について公表を義務付け

○妊娠・出産の申し出をした労働者に個別の周知と意向確認を義務付け

・労働者または配偶者が妊娠または出産した、など申し出たときに、育児休業制度などの優遇制度を個別に周知、制度の取得意向の確認を行うことを義務付ける

・取得意向の確認時、育児休業の取得を控えさせるような周知や意向確認を行わない

 なお、育児・介護休業法では、介護休業や育児休業などを申し出たり、取得したりしたことを理由に解雇や降格などの不利益な取り扱いを行うことを禁止しています。また、介護休業、育児休業の取得などに関して、ハラスメントが発生しないよう防止対策を行うことを会社に義務付けています。コンプライアンスが重視される昨今、慎重な取り組みが必要です。

これから予測される課題は?

 ここまで改正育児・介護休業法から育児・介護休業制度を見てきました。育児のための取り組みが目立ちますが、高齢化社会の現在、介護も大きなテーマとなります。誰しもが親や配偶者などを介護する未来を抱える現在、制度をよく知り、抱えている環境に応じて準備を行っておくことも必要でしょう。

 仕事と家庭の両立支援への取り組みは、企業のイメージアップだけでなく、社員の意識向上や生産性向上、優秀な人材確保、人材定着につながります。各種の支援制度の活用により、労働者が自分の希望するライフプランを実現しやすくなるのは好ましいことです。会社側としては、法的な義務付けはもちろん、業務の見える化や業務サポートシステムの導入、ノウハウ・情報などの共有、マニュアル作成や研修の整備などで、業務の属人化(特定の個人しかその業務を把握していない状態)を防ぎ、すべての社員が仕事と家庭をスムーズに両立できるしくみづくりが重要と思われます。

 しくみ作りにおいては、環境や目的に合ったツールやソリューションを探すとよいでしょう。場合によってはベンダーに相談するのもいいかもしれません。なお、厚生労働省「両立支援のひろば」には、両立支援に取り組む企業の事例や、会社の取り組み状況を診断する「両立診断」、そして「子育てサポート企業」認定を受けられる「くるみんマーク」制度などがあり、具体的な方向を探る参考になります。時には「両立支援等助成金」も頼りになるでしょう。少子化・高齢化による人材不足解消のカギである「仕事と家庭の両立支援」に全力で取り組み、皆が快適に暮らせるサステナブルな未来を作っていきましょう。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=青木 恵美

長野県松本市在住。独学で始めたDTPがきっかけでIT関連の執筆を始める。書籍は「Windows手取り足取りトラブル解決」「自分流ブログ入門」など数十冊。Web媒体はBiz Clip、日経XTECHなど。XTECHの「信州ITラプソディ」は、10年以上にわたって長期連載された人気コラム(バックナンバーあり)。紙媒体は日経PC21、日経パソコン、日本経済新聞など。現在は、日経PC21「青木恵美のIT生活羅針盤」、Biz Clip「IT時事ネタキーワード これが気になる!」「知って得する!話題のトレンドワード」を好評連載中。

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