視点を変えて可能性を広げるITの新活用術(第9回) 社内連携強化の秘策は「IT活用」

クラウド・共有 コミュニケーション

公開日:2023.10.02

 コロナ禍を経て、働き方を取り巻く環境が大きく変化した。オフィス勤務と在宅勤務という二元論だけではなく、事業継続計画(BCP)の側面から災害や感染症拡大などのリスクに対応するため拠点を分散する企業もある。社内プロジェクトでも、メンバーが1カ所に集まるのではなく、拠点をまたいだバーチャルな組織が増加傾向にある。こうした理由から、相手の状況が見えない場所で仕事をする機会が増えているのではないだろうか。

 働く場所が多様化し、物理的に離れたところで仕事をする従業員との連携はこれまで以上に重要になる。上司は部下の仕事の進捗や進め方を確認したいだろうし、部下は疑問などを気軽に上司や先輩に相談したいだろう。業務内容や労働時間が適切かどうかも、離れていると判断しにくく、何らかの対策が求められる。さらに非常時の対応も考えなくてはならない。大規模災害などが発生したとき、分散した拠点や在宅勤務中の従業員の安否確認は容易ではない。

 上述したような社内連携の強化に役立つソリューションとして、ビジネスチャットやクラウドストレージ、働き方可視化ツールなどのITツールやサービスが挙げられる。これらがどのように社内連携強化に役立つのかを見ていこう。

業務連絡も意思疎通も気軽にできるコミュニケーションツール

 ITを活用して社内連携を向上させたいときに陥りがちなのが、多機能、高機能なツールを導入した壮大な理想像を描いてしまうことだろう。もちろん、ビデオ会議から音声やテキストのチャット、情報共有用のストレージ、共有ホワイトボードなど、多機能であればあるほどコミュニケーション活性化の可能性は高まる。しかし、従業員にとっては手間や手段が増えるだけで、あまり使われないままといった場合がある。誰もが手軽に使えるツールで社内連携を促進することを第一に考える必要があるだろう。

 そこで注目したいのが、ビジネスチャットツールだ。従業員の多くはプライベートで無料チャットツールやSNSのメッセージツールを使いこなしているため、チャットに対する抵抗感は低く、ビジネスチャットが浸透しやすい土壌がある。人によっては業務上の連絡をプライベートのチャットツールで行っているケースもある。業務上の連絡手段をビジネスチャットツールに一本化できれば、セキュリティ対策や情報の可視化にもつながるはずだ。

 パソコンでもスマートフォンでも利用でき、スタンプなども送信できるビジネスチャットならば、電話やメールに慣れていない若手の従業員との連携がスムーズになる可能性が高い。部署やプロジェクトごとなどグループ単位でも利用でき、場所を問わずに最新の情報を共有できる点もメリットだ。

 ビジネスチャットは非常時の安否確認にも力を発揮する。通話が輻輳(ふくそう)しがちな災害時でも、インターネットなどのデータ通信は比較的安定して利用できるからだ。ビジネスチャットのアンケート機能などを利用すれば、社員の安否、自宅などの状況、出勤の可能性といった情報を一斉に収集できる。日常的に使っているチャットツールなら、災害時に使用するアプリやサービスを見つけられなかったり操作に戸惑ったりするようなトラブルも発生しにくいだろう。

ビジネスチャットは非常時の安否確認にも有効

実施業務のログ収集が可能なソリューションも

 社内連携を推進するにあたり、情報の共有も円滑に行わなくてはならない。資料などが紙で保管されていると、物理的に離れた場所では業務の遂行が難しい。コロナ禍の外出自粛のような事態が再度発生した場合を想定し、情報はデジタル化して従業員がアクセスしやすい場所に保管しておく必要があるだろう。現在は自社でストレージやネットワークを構築しなくても、クラウド上でストレージの利用が可能だ。従業員が場所を問わず必要な情報にアクセスできる環境が容易に構築できるのだ。

 経営者や管理職には業務実態の把握も求められる。従業員が適切な業務内容を適切な時間で遂行しているか。セキュリティリスクや、パソコンなどIT資産のリソースが適切に管理されているか。こうした業務実態の管理も、AI(人工知能)などを活用した働き方可視化ツールが手助けしてくれる。パソコンの利用状況から業務の実績を確認し、重複している業務は作業の見直しやRPAへの移行といった気づきを与えてくれる。働き方可視化ツールを導入して業務効率の低い作業を発見したところ、パソコンのメモリー不足による処理速度低下が原因だったと判明し、メモリーを増設して業務効率が向上したといった事例もある。

 オフィス回帰の動きも見られるが、働き方の多様化に向けた大きな流れは変わらないだろう。オフィスに集まって顔を突き合わせるだけがコミュニケーションや連携ではない。物理的な場所を越えた従業員の連携が可能なインフラを備えておくことは、さらなる働き方の多様化や万が一の災害時などへの対応になりそうだ。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=岩元 直久

【MT】

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