五郎丸に影響与えた指導者の部下育成術(第3回) 「口下手でもいいじゃないか」――短所に光を当てる

人材活用

公開日:2016.02.17

ラグビーワールドカップの大活躍で話題となった五郎丸歩選手。選手として基礎を固めた早稲田大学ラグビー蹴球部時代の監督が中竹竜二氏だ。五郎丸選手は、今でも影響を受けた指導者として中竹氏の名前を挙げる。中竹氏に結果を出す部下への指導法を学ぼう。

 今回は「部下に気づきを与える」言葉のかけ方の第2回。前回、強烈な「らしさ」、つまりスタイルを生かすことが大事だと説明した。しかし、そもそも部下のスタイルをどう見つければいいのか。そこに悩む上司もいるだろう。その1つの解は、「短所に光を当てること」だと思う。

 「鈍足なんだから、速く走ろうとするな」。これは、私が自分自身に言い聞かせてきた言葉だ。小学校でラグビーを始め、大学まで選手を続けたが、プレーヤーとして大活躍できたかというと残念ながらそうではない。

 その原因の1つは、私の一番のウィークポイントである足の遅さだ。最も速かった大学の現役時代で、50メートル7秒6。フォワードのフランカーというポジションにおいては致命的な数字だった。とはいえ、いくら頑張ってもそう簡単に足は速くならない。そして、必死に頑張って0.1秒、0.2秒縮めたところで、プレーのパフォーマンスがグンと上がるわけではなかった。そこで、私はどうしたか。鈍足をカバーする方法を必死で考えたのである。

 フランカーというポジション、特にゲーム中のあらゆる場面を洗い出した。そして、その中で俊足であることが求められる割合を計算してみた。すると、80分間、15人でプレーするラグビーにおいて、フランカーの私が直線を50メートル走るシチュエーションはほとんどなかった。確かに瞬間的なスピードが求められる場面はあるが、そういう場面を分析すると、スタートのタイミングやゲームの流れの読み、走るコースの選択などで、鈍足を十分に補えると分かった。

短所に光を当て、ストレスから解放する

 生理学的に、全力疾走した後は、回復までに休息が必要になる。どうせ7秒6でしか走れない。全力で走ってその後、休息を必要とするくらいならば、いつも8割で走ったほうがいい。8割で走っても、7秒9くらいだ。大差はなく、足が遅いことには変わりない。

 80分間、絶対に全力疾走しない。いつも8割程度の力で走る。そうやって体力をセーブし、いかにスタートのタイミングやゲーム観、走るコースのうまさで勝負するかに集中した。「日本一足の遅いラガーマン」。それが学生時代の私のキャッチフレーズであり、それを突き詰めて考えたことで「光」が見えた。

 この話の要諦は何か。前項で書いたように、「苦手なこと=走ること」をプレーの中心に据えず、自分をストレスから解放した。そしてさらに大事なのは、短所を補うために、それをしなくてもいい方法を編み出すことである。その方法は私のように、その人のスタイルへと変わる場合がある。

短所をカバーできる強みをいかに導き出すか

 例えば、極端な口下手にもかかわらず、営業部に配属された部下がいるとしよう。ここまで述べてきたことを実践しようとするならば、「営業なんだから、コミュニケーション力を高めなければ」などと、間違っても言ってはならない。「口下手でいいじゃないか」と、短所をいったん受け入れ、「顧客と話すことが苦手ならば何を武器にして営業すればいいのか、一緒に考えよう」と励ます必要がある。

 国語、数学、英語、理科、社会。この5つの受験科目のうち、どうしても国語が苦手なとき、そのマイナスを他のどの科目でカバーするかを考えるのと同じだ。数学が得意であれば数学、英語が得意であれば英語で、平均点以上の点を取ればいいのだ。

 ただし、上司にとって容易でないのは、仕事の場合は学校の科目のように何でカバーしたらいいのかが、なかなか具体的に見えないことである。短所をカバーできる強みをさまざまな視点で部下とともに考え、「これならできる」と思えることを丁寧に探していく必要がある。

 口下手の営業ならば、提案書を完璧にすることも1つの手だ。分かりやすく、それほど話さなくても相手が理解できるような提案書の書き方を確立する。顧客に出向く前に、作成した提案書を送っておけば、説明は最小限で済む。あるいは、チームワークで乗り切る方法もある。営業のクロージングの日には上司を連れていく。商品の詳細説明の日には、エンジニアに同行を求める。この場合、チームで協業する力を磨くことが重要になる。

 こうした方法の中で、どれが最も向いているのかを考えれば、その人が伸ばすべき強みがおのずと見えてくる。

執筆=中竹 竜二

1973年福岡生まれ。93年早稲田大学入学、4年時にラグビー蹴球部主将を務め、全国大学選手権準優勝。卒業後、渡英しレスター大学大学院社会学部修了。2001年三菱総合研究所入社。2006年早稲田大学ラグビー蹴球部監督就任。2007年度から2年連続で全国大学選手権を制覇。2010年退任後、(公財)日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターに就任。近著に『部下を育てるリーダーのレトリック』(http://www.amazon.co.jp/dp/4822249719)がある。

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