ビジネスにまつわる経費の話(第10回) 「捨てるべき銀行」「付き合うべき銀行」の見分け方

資金・経費

公開日:2016.08.29

 『捨てられる銀行』(橋本卓典/著、講談社現代新書/刊)という本がベストセラーになっています。これからの時代に生き残る銀行、顧客に捨てられる銀行とはどんなものかについて論じた本です。

 今、多くの銀行員がこの本を読んでいるといいます。ある地方銀行では、この本を読んだ頭取が全役員にこの本を読み、感想文を書かせたという噂もまことしやかに語られるほどです。

 これまでは多くの銀行員は「銀行は経済の根幹である。政府も財務省も金融庁も銀行を守ってくれるはずだ」と信じ、「自分たちが顧客から捨てられることはあり得ない」とタカをくくってきました。しかし本書は「地域の顧客にリスクをとれない銀行は消滅する」と断言しています。だからこそ、「捨てられる」という強いタイトルに銀行員に大きなインパクトを受けたのです。

 これを、銀行と取引する立場から逆説的に捉えるなら、利用者も銀行を選別していかなければならない時代がやって来たということでもあります。企業が付き合いを切り捨てるべき銀行とは、付き合いを深めるべき銀行とはどんな銀行なのでしょうか。

銀行員が何も考えなくなってしまった理由

 企業が切り捨てるべきは、「(顧客のことを)何も考えていない」銀行です。残念ながら多くの銀行は、顧客よりも監督官庁である金融庁のことを考えて仕事をしています。金融庁の指示に従わなければ、業務停止命令を受ける恐れがあるからです。

 半沢直樹シリーズや下町ロケットシリーズで知られる元銀行員である池井戸潤氏の作品には、個性的で人間味溢れる銀行員も登場します。しかし、そんな銀行員は銀行という組織の中では生き残れないのが現実です。銀行経営者は金融庁の顔色ばかりうかがうようになり、銀行員も経営者や上司の顔色ばかりうかがうようになってしまいました。それこそが、銀行が生き残る方法であり、銀行員にとっては出世の近道だからです。

 銀行が金融庁の顔色をうかがうもう1つの理由として、「金融検査マニュアル」の存在が挙げられます。

 金融庁は、バブル崩壊によって次々と不良債権が発生した頃から銀行を指導してきました。その根幹にあるのが「金融検査マニュアル」です。各銀行は、金融庁が作成したこのマニュアルに基づき、融資の判断を行うようになりました。財務情報に基づく評点を重視し、融資の可否を判断するようになってしまったのです。

 そこには小説やテレビドラマのようなサプライズも人間性もありません。金融検査マニュアル通りに融資の判断を行えばいいので、銀行員が企業の将来性や社長の経営者としての能力を評価する必要など無かったのです。その結果、多くの銀行員は何も考えなくなってしまいました。

金融庁の改革で「事業を見よ」がキーワードに

 ところが最近になって、金融庁の考え方が変化し始めました。2015年に金融庁長官に就任した森信親氏が、大規模な「金融改革」を実行したのです。

 これまではバランスシート、つまり、資産や担保を重視し、融資の可否が判断されてきました。しかし今後は、“「事業性評価」をより重視すべきである”と、方針を転換しました。つまり、これまで重視してこなかった「企業の成長可能性」を分析することが銀行に求められているのです。

 もちろんこうした考え方は、以前から銀行にありました。例えば「目利き」だとか「定性情報分析」という言葉で、企業の成長性を評価していました。財務状況の芳しくない企業や、一時的に業績が悪化している企業であっても、熟練の職人のような銀行員がその企業の将来性を見抜き、取引が継続できるように稟議書を作成していました。まさに熟練の技ともいうべき技量を持った銀行員がかつては存在したのです。彼らの存在が、銀行と取引先との強固な関係の源でした。

 しかし、不良債権処理を急ぐ金融庁検査の厳格化によって、こうした価値観は否定され、熟練の技は失われてしまいました。金融庁もようやくそのことに気付き、事業性の評価をより重視するように方針を変えたのです。つまり金融庁は、経営統合や合併により規模拡大に走り、低金利競争を激化させ、取引先企業の事業性を見なくなってしまった銀行の現状を、大きく変えようとしているのです。

 「事業を見よ」、これこそが今後の日本における金融行政のキーワードです。金融庁の顔色ばかりうかがうことで生き延びてきた銀行は、この変化に戸惑っています。しかし、この変化に対応できなければ、銀行は生き延びることができません。だからこそ、『捨てられる銀行』という本が、銀行員の間で注目されているのです。

捨てられるべき銀行、付き合いを深めるべき銀行

 この変化は中小企業にとっても大きなチャンスといえるでしょう。

 これまで銀行は、取引先の事業内容や将来性よりも、業績や資産、担保を重視してきました。中小企業の経営者の中には、「将来性や会社の持つ技術力をどんなに熱心に銀行に説明しても、担当者はまるで興味を示すことはなかった」という経験をした人もいるでしょう。

 しかし、銀行は今、変わろうとしています。多くの銀行員が『捨てられる銀行』を読んで危機感を抱き、低金利競争とマイナス金利政策の先に待っている銀行の衰退を予感しています。本気で成長の可能性がある企業に融資をしないと、銀行の将来も危うい状況に気付いているのです。

 もし「事業に関心がない」「そもそも事業の話を聞こうとしない」という古い意識の銀行員ばかりなら、それは間違いなく“捨てられるべき”銀行です。逆にいえば、事業についてしっかりと話を聞いてくれる銀行員を育てているのが、付き合いを深めるべき銀行といえます。

 もちろん、銀行の顧客となる企業側も、銀行に対してこれまでとは違ったモノを求めるべきです。銀行に対して「単なる資金の供給先」としか認識していないのであれば、銀行から十分な協力が受けられないかもしれません。事業の将来をサポートしてもらうパートナーとして位置付ける必要があるでしょう。

執筆=南部 善行(studio woofoo)

1991年、関西学院大学経済学部卒業。同年、地方銀行に入行し、長年にわたり地域に密着した経済活動を支援。支店勤務では営業統括部門の責任者として経験を積む。資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を生かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。その他、豊富な実務経験を生かし現在は不動産、相続対策など、関連分野においてフリーのライターとして活動している。

【T】

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