ビジネスにまつわる経費の話(第7回) 大塚家具のような「お家騒動」を未然に防ぐ方法

資金・経費

公開日:2016.05.26

 「他人の不幸は蜜の味」。不謹慎とは思いつつ、妬んだ相手の不幸を喜んでしまう脳内メカニズムが脳科学的にも証明されているそうです。だからこそ、成功したファミリー企業にお家騒動が起こると、週刊誌やテレビのワイドショーで大きく取り上げられるのでしょう。

 最近では、大塚家具が経営方針を巡り、父・大塚勝久会長(当時)と娘の久美子社長による騒動が話題になりました。こうした大企業だけでなく中堅・中小企業のオーナー経営者にとって、お家騒動、事業承継トラブルは人ごとではありません。今回はお家騒動を未然に防ぎ、事業承継をスムーズに実現する方法を考えてみましょう。

絶対に欠かせない「株式の集中」

 お家騒動を防ぐためには、オーナー経営者が株主総会を優位に進める必要があります。というのも、株主総会は株主とともに会社の基本的な方針を決定する場であり、その方針は、株主が所有している株式数の多数決によって決定されるからです。そのため、オーナー経営者の持株比率が低下すれば、会社に対する経営支配が弱まり、お家騒動へと発展する可能性が高まります。

 もし、会社が発行する株式の3分の1を確保できれば、株主総会における特別決議(営業の全部または一部の譲渡、定款の変更、減資、解散、合併など、会社の根本に関わる内容の決議)を阻止できます(拒否権)。さらに過半数の株式を確保できれば、株主総会における普通議決(取締役の選任や利益処分など、通常の議案に関する決議)が可能となり、経営権を取得できます。さらに3分の2の株式を確保できれば、前述の特別決議が可能となり、例えば任期途中の取締役の解任も可能になります。

 つまり、円滑な事業承継を行い、承継後の経営を安定させるには、後継者に相当の自社株や事業用資産を集中させ、株主総会でトラブルが起きないように配慮することが不可欠になります。

強制的に持株が分散? 「遺留分」に注意

 しかし、オーナー経営者の個人資産の大半が自社株の場合には、相続に当たり、後継者に自社株を集中させようとすると、厄介な問題に直面してしまいます。それは、ほかの相続人の「遺留分(いりゅうぶん)」を侵害してしまうケースがあるという問題です。

 遺留分とは、一定の相続人が最低限相続できる財産のことです。本来であれば、誰に自社株を相続させるかは、株を持っているオーナーである経営者が自由に決めることができます。しかし、経営者が死亡した場合、その財産に依存して生活していた親族が全ての財産を失うのは不条理であるため、一定の相続人は遺留分を得る権利が民法で認められています。

 例えば経営者が自社株を後継者1人だけに集中させて相続させたいと思っても、他の相続人から遺留分を主張されれば、自社株が分散する可能性があるのです。これは「遺留分減殺請求」と呼ばれます。これによって自社株が分散し、後継者の持株比率が低下すると、分散した自社株が元でお家騒動へと発展する可能性もあります。そうなれば、円滑な事業承継に問題が生じる恐れがあります。

遺留分の主張を避ける方法とは?

 後継者に自社株を集中して相続させたい場合は、どのようにすればよいのでしょうか。この問題を解決するのが、経営承継円滑化法に基づく、遺留分に関する民法の特例の活用です。

 一定の要件を満たす後継者が、遺留分権利者全員の合意を得て所定の手続きを行うと、後継者が現経営者から贈与などによって取得した自社株について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなります。これは「除外合意」と呼ばれます。

 この制度を利用すれば、相続による自社株分散を防ぐことができ、経営方針が対立する相続人に株が渡ってしまうというトラブルを未然に対処できます。

 もう1つ、「固定合意」という方法もあります。これは、生前に贈与された自社株の評価額をあらかじめ固定するというものです。この固定合意を行うことで、例えば後継者が会社の業績を向上させ、その結果自社株の評価額が上昇したとしても、遺留分の額は変わりません。つまり後継者は、相続時に想定外の遺留分の主張を受けるリスクを排除できるのです。

経営者が代われば会社の業績がアップする?

 政府は2016年4月22日、2016年版の中小企業白書を閣議決定しました。今回の白書で注目されるのは、経営者の交代が業績に与える影響を分析していることです。同じ経営者が長く経営を続ける企業よりも、経営者が交代する企業のほうが高い利益率が見込まれやすいと指摘しています。高齢の経営者ほど投資意欲が低く、リスクを避ける傾向が強いとして、計画的な世代交代が重要だと結論づけています。経営の世代交代は企業経営者の個人的な問題ではなく、もはや日本経済を活性化するための大きな課題となっていることがうかがえます。

 遺留分に関する民法の特例は、会社の業績に直接的に結びつくものではありません。しかし、経営の世代交代をスムーズに行い、お家騒動を避けるためには、この制度を有効に利用する必要があるのではないでしょうか。

執筆=南部 善行(studio woofoo)

1991年、関西学院大学経済学部卒業。同年、地方銀行に入行し、長年にわたり地域に密着した経済活動を支援。支店勤務では営業統括部門の責任者として経験を積む。資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を生かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。その他、豊富な実務経験を生かし現在は不動産、相続対策など、関連分野においてフリーのライターとして活動している。

【T】

あわせて読みたい記事

  • 個人事業主・小さな会社の納税入門(第30回)

    年の途中で個人事業主から法人化した場合はココに注意!

    資金・経費

    2025.02.04

  • 税理士が語る、経営者が知るべき経理・総務のツボ(第110回)

    厳しさ増す消費税調査、AI導入と体制見直しが影響か

    業務課題 経営全般資金・経費

    2025.01.16

  • 個人事業主・小さな会社の納税入門(第29回)

    「期末商品棚卸高」の計算にはご注意を!

    資金・経費

    2025.01.08

連載バックナンバー