“ゆとり君”と働くために覚悟しておくこと(第8回) 会社は「つらい訓練所」だと教える

コミュニケーション

公開日:2015.12.10

 温室のような環境の中で育ったゆとり世代は、さまざまな経験に欠けています。例えば、会社の上司や先輩など、年代の異なる人たちとの会話自体でさえ、彼らに未知の体験であり、ストレスになります。ビジネスの基本であるお金もうけにつながる交渉事などは、はるかに高い山のように見えていることでしょう。

 社会人となり、初めて取り組んだ仕事はうまくいかないことのほうが多く、うまくいくのはわずかです。ゆとり教育でほとんどのことがうまくいった(あるいは、うまくいったと思いこまされた)世代ですから、挫折をあまり経験していません。ビジネス社会に出て、ちょっとうまくいかないとすぐに傷ついてしまうわけです。

 私は自分が20代前半に経験したことを通じ、「それは自分が一人前のビジネスマンになるためのトレーニングであり、うまくいかずにつらい気持ち、苦しい気持ちになるのはトレーニングにおける筋肉痛と同じなんだ」と気づきました。つらく、苦しいトレーニングを続けていけば、そのうちに必要なところにいろいろな筋肉が付いて、次第に筋肉痛は起きないようになります。

 それと同じで、ゆとり世代には「仕事でつらい思いをするのは、上手に仕事ができるようになるためのトレーニング中だからなんだ」という意識を持たせなければなりません。でないと、「失敗した↓ダメだ↓できない」とやる気を失ってしまいます。

 ちょっと態度が横柄な上司がいたとしましょう。話しかけると「おう」「なんだ?」といった言葉遣いをする上司です。ゆとり世代は、そういう上司に話しかけるだけでストレスになるのです。さまざまな企業で新入社員研修をしていると、「上司が怖い」という声を本当に多く聞きます。

 しかし、よくよく話を聞いてみると、上司の態度が横柄だったり、言葉遣いがぞんざいだったりというだけで、特段、怒られたり、叱られたりしているわけではありません。そういう人とこれまでの人生で接したことがないため、接するだけで「怖い」と感じているのです。

痛みを乗り越えてこそ、ご飯が食べられる

 学生時代の部活動で先輩・後輩の厳しい上下関係を経験したりすれば話は別ですが、こういう対人関係一つをとっても、ビジネス社会はゆとり世代に「痛み」や「つらさ」を与えます。その痛みを失敗と捉え、挫折につながるか、痛みは筋肉痛と捉え、さらに筋肉の強化に励めるかがゆとり世代を戦力化できるかどうかのカギになります。

 「仕事で嫌なことやつらいこと、苦しいことを経験していると思うが、それはビジネス社会におけるお金もうけの筋肉を付けるトレーニングの副産物である筋肉痛なんだ。これまで鍛えていない筋肉を鍛えているから起きる筋肉痛であって、君の能力が低いわけではない」と教えましょう。筋肉痛に負けない、折れない心を持ち続けて仕事を継続すれば、いずれ筋肉痛にならない、立派なお金もうけの筋肉が身に付きます。大切なのは、「腐らせないこと」です。ゴールを示し、やる気を失わせないよう導きましょう。

 私自身、じんざい社を立ち上げるまでの5年間、20代前半の頃は毎日が筋肉痛との戦いでした。今考えてみれば、大学も出ていない、企業にも属していない若造が教育・研修の売り込みに来ているのですから、とりあわなくても当たり前です。名前を覚えてもらうことから成約まで、一つひとつがつらさ、苦しさの連続でした。とにかくがむしゃらにやっていて、ほとんど収入もありませんでした。どうやって食べていたかすら覚えていないほどです。

 アポイントを取った相手企業に行くのに、電車賃がないときもありました。どうしようと思って、小学生のころからためていた500円貯金箱を壊して持っていったというつらい思い出もあります。今振り返れば、お金もうけの筋肉がまったく付いていなかったから、すごい痛みの連続だったことが分かります。その痛みを乗り越えてきたからこそ、今こうしてご飯を食べさせてもらっていると考えています。

 この章の最初に「新入社員研修でさまざまな上司がいることを教え、新入社員が抱く期待と現実のギャップを縮めなければならない」と書きました。ここでも、同じことがいえます。仕事で帰りが遅くなっても、翌朝早く出社しなければならない、嫌いな上司にも、元気よく挨拶をしなければならない。こんなつらさ、苦しさが現場で待っていることを研修のときにあらかじめ教えておけば、ショックを受けることは少なくなります。

 「皆さんは、仕事で体も心もつらいときに、先輩や上司に大きな声できちんと挨拶できますか?」

 私は研修でよくこう聞きます。仕事でうまくいかないことが多い上に、体も心も疲労し、それでも新入社員としての姿勢は示さないといけない。それもこれも、乗り越えるべきトレーニングだと思えば、きっと彼らの心が折れることはないでしょう。

日経トップリーダー/柘植智幸(じんざい社

執筆=柘植 智幸(じんざい社)

1977年大阪生まれ。専門学校卒業後、自分の就職活動の失敗などから、大学での就職支援、企業での人財育成事業に取り組む。就職ガイダンス、企業研修、コンサルテーションを実施。組織活性化のコンサルティングや社員教育において、新しい視点・発想を取り入れ、人を様々な人財に変化させる手法を開発し、教育のニューリーダーとして注目を集めている。さらに、シンクタンクなどでの講演実績も多数あり、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、経済界、日経ベンチャーなど多数のメディアにも掲載される。

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