税理士が語る!経営者が知っておきたいお金の話(第4回) 社員の満足度を下げずに人件費を抑える方法とは

業務課題 資金・経費

公開日:2015.07.01

 最近、新聞やWebニュースで人件費や雇用の話をよく目にします。これは現在、政府がアベノミクスの「3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)」により、“どれだけ真面目に働いても暮らしが良くならない”という日本経済の課題を克服するために、賃金引き上げや有効求人倍率を上げようという努力の表れでもあります。

 しかし、企業(主に経営者)からすると、賃金引き上げや無駄と考えられるコストの引き上げは、利益にダイレクトに影響してきますので、簡単には引き上げることができません。一方、従業員からみると、もっと給与を上げてもいいのではないかというような声もあります。私も税理士として毎月顧問先を訪問していますが、どの会社も、経営者サイドの「支払う側の論理」と従業員サイドの「受け取る側の論理」にはズレが見受けられます。

 「社員の満足を下げずに人件費を抑える」ことができれば、経営者も従業員も双方が満足できるようになるのですが、それを実現するには、どうすれば良いのでしょうか? そのポイントとして、今回は「従業員が納得のいく評価を行う」ことと、「社会保険などテクニックを使う」ことの2点を紹介します。

対策その1:納得のいく評価基準で従業員の不満をなくす

 まずは「従業員をきちんと評価する」ことについて見ていきましょう。もともと日本は年功序列の給与体制が根強く、成果給などを導入している企業はごく一部と言えるでしょう。従業員の給与に対する不満を払しょくするには、評価に基づいた給与を支払うことが大事です。

 しかし、単に成果給を導入すればいいということではありません。また、「謹怠」や「お客さまの満足度」などを従業員の評価基準に入れている企業もあるでしょうが、根本的な解決にはなりません。ではどのようにすれば良いのでしょうか。

 経営者が納得のいく支払額を支払い、従業員も満足のいく給与額を受け取るためには、経営者だけでなく、従業員も人事給与体制について考えることです。どれだけ仕事をしたかではなく、利益を上げる仕組みの中でどれだけ利益を上げることに貢献できてきたかを、経営者と従業員が一緒に考え、そのためにどれだけの売上を上げることに貢献しているのか、社内環境の整備にどれだけ貢献したかなど、給与の基準を従業員とすり合わせておくことが重要です。

 繰り返しになりますが、経営者には「支払う側の論理」が、従業員には「受け取る側の論理」がそれぞれあります。経営者側では、予算や過去、現在の収入など、人件費以外に必要となる経費を踏まえて人件費に割ける総額を考え、そこから従業員の給与はいくらと計算します。一方で従業員は、予算や過去、現在の収入や人件費以外の経費のことはあまり考慮せず、どれだけ働いたか、会社にどれだけ貢献したかを自分の物差しで測り、これくらいの給与額が欲しいというように考える人が多いです。

 どちらの言い分も正しいです。ですが、どちらも正しいだけに、どちらも歩みよらないのであれば、永遠にこの溝は埋まりません。

 私自身、さまざまな企業を見てきましたが、経営者と従業員の距離が近く、上記のような議論を一緒にできている会社は、社員満足度が非常に高いように見受けられます。逆に、経営者と従業員の距離が遠い企業では、社員満足度が低いのでしょうか、離職する方が多く見られます。最終的には支払う側の論理が通ることが多いと思われますが、その結果、優秀な社員が離れてしまうのは、企業としても本望ではないでしょう。

 このように経営者と従業員の意識をすり合わせることが大事ですが、経営者と従業員をつないでいるのが管理職です。管理職は経営者の意向を与して動き、それを従業員に浸透させ事業を動かしていきます。管理職でも給与の額について不満に感じている人も多いと思いますが、直接に根拠を示して「給与を上げてください」と直談判をする前に、まずは「事業の計画を一緒に考えさせて下さい」と交渉してみるのはいかがでしょうか。

 経営者は、当期の経営成績(主に売上)やキャッシュフローに常に追われています。「支払う側の論理」が分かる管理職が育ち、社員満足度が上がれば、本当に経営者は助かります。経営者は当期の売上を上げつつも経費も抑えなければならない、かつもしもの場合には自分自身が責任をとらなければならないリスクと重圧を、常に感じています。孤独でストレスのかかる地位です。給与の額ひとつとっても、自分の考えの下で考えてくれる管理職がいてくれることは本当に大事なのです。

 経営者も従業員も納得のいく給与体系にするためには、管理職は経営者に、従業員は管理職に、上記のような提言をしてみてはいかがでしょうか。そして経営者としては、従業員がそういった意見を言いやすい環境を作っておくことが大事です。

 従業員の納得を得た評価基準によって給与を決めれば、従業員から不満が出ることもないでしょう。

対策その2:社会保険料を減らし、手取り額を増やすテクニック

 続いては、ポイントの2つ目である「社会保険の制度を利用して、手取り額を増やす」というテクニックをご紹介いたします。

 当たり前の話ですが、給与額から控除額を引いたものが手取り額となります。控除額は給与額が大きいと比例して大きくなりますが、手取り額をなるべく増やすためには、控除額を下げれば良いのです。

 控除額の内訳は、社会保険料(健康保険、厚生年金)と所得税、住民税が主に占めております。今回注目していただきたいのは「社会保険料」です。社会保険料については等級というものがあり、4、5、6月の給与額によって等級が決まります。そしてこの等級によって、向こう1年(ほぼ)の社会保険料が決まります。4~6月の給与が多ければその分社会保険料も高くなりますので、日本全体で6月を過ぎた時期から昇給が多いのもこのためです。

 昇給をする際や給与額を変える際には、社会保険の保険料率表を確認しながら、給与額を決めるといいでしょう。というのも、給与額の差はわずかでも、社会保険額が大きく変わる場合があるためです。

 たとえばとある都道府県で、30代社員の給与額が514,000円、社会保険として控除される額が67,950円だったとしましょう。この社員の給与額が1,000円上がって515,000円になると、社会保険額は4,000円近く高い72,027円となります。つまり、給与額は上がっているのに、それ以上に社会保険料が上がっているため、手取り額としては減ってしまうのです。

 これは社会保険料率表を見るとよくわかりますので、参照していただければと思います。給与は会社が支払う総額から決めるのではなく、社会保険料などを差し引いた手取り額も考慮しながら決めることが、従業員にとってはありがたいことなのです。

 このように少しの努力や工夫で、給与を上げずとも従業員の不満を抑えられたり、手取り額を増やすことができるのです。各人の給与体系を満足いくように考えるというのも、管理職や人事にとっては必要なスキルではないでしょうか。

 ※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年10月17日)のものです。

執筆=神谷 拓摩(かみや会計事務所)

大阪府吹田市出身。2002年3月履正社高校卒業、2006年3月慶應義塾大学商学部卒業。その後6年間、税務会計事務所、税理士事務所にて税務、会計事務に従事する。2014年6月に独立、かみや会計事務所開業。

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