ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
仕事を楽しめば成果も上がる「フロー理論」と、会社を変えるために必要な「共同体感覚」。この両者が高次元で両立すれば、従業員が仕事を楽しめるうえ、会社の業績も上がり、より良い企業に変えることができる。
フロー状態にある社員(以下、フロー社員)を多く生み出すためには、そのための環境を作り出すマネージャも必要である。今回はその実現事例として、日本のコンピュータの祖・富士通の池田敏雄と、そのマネージャであった小林大祐の仕事ぶりから、フローを生み出すマネジメントが何であるかを考えていく。
若き池田敏雄は型破りな人間だった。新しいアイデアが浮かぶと思考が集中してしまい、何日も自宅にこもって出社するのを忘れることがあった。かと思えば、何日も会社に泊まり込んで研究に没頭することもあった。
現在の会社ではフレックス制や裁量労働制などの新しい制度が導入され、比較的多様な働き方が可能になっているが、制度の枠を超えた働き方が許されるわけではない。池田のような働き方をする社員は、指導されることはあっても、指導する立場、つまり管理職に昇進することは難しいだろう。
しかし池田は、取締役になりコンピュータ事業の舵を取るまでに至った。その池田の軌跡を辿ることにしよう。
池田が富士通に入社して間もなく、日本電信電話公社(現NTT)に初めて導入された電話機がダイヤルの作動障害を起こしたが、池田はダイヤルの作動を理論的に解析、問題の本質を明らかにした上で、このトラブルを解決させてしまった。
池田の上司であった小林大祐は、彼の才能を存分に発揮させる場を整えるべく、社内の根回し役となった。池田の研究への情熱に応えるように、会社は昭和23年、機構研究室を設置。池田は研究に没頭することができ、富士通は通信機メーカーからコンピュータメーカーヘと進化を遂げた。
当時の富士通は、一日出勤しなければ一日分給料が減るという日給月給制をとっていた。そのため池田の勤怠では、月給ゼロ、賞与もゼロという時が続き、さすがの池田も悲鳴をあげたそうだ。そのとき、小林が動いた。会社のルールを変え、池田一人のために固定月給という特例で遇することを認めさせたのである。
池田は、寝食を忘れて研究に没頭し、フロー状態にあったと考えられる。しかし、池田がフロー状態で仕事を継続できたのは、会社や上司が彼の才能を引き出すマネジメントを執ったからでもある。もし一般的な就業規則や給与体系の枠にはめていたら、富士通はコンピュータメーカーになれなかったかもしれない。この点を見過ごすことはできない。これがフロー・マネジメントの真髄である。
イノベーティブな成果を生み出す源泉は、優秀な社員のフロー状態にある。そうであれば、イノベーションを起こしたければフロー状態で働くことができる社員を増やせばいい筈である。では、フロー状態で働くことができる社員を増やすためには、一体どうすればいいのだろうか?
それは、その素養のある社員を採用することであり、その素養のある社員を育成することに他ならない。
採用と育成について、別のスペシャリストの選考からそのヒントを得ることにしよう。
プロのミュージカルのプロデューサーによると、最終的にオーディションの決め手となるポイントは「基礎がしっかりと身についているかどうか」なのだという。「小さいときからクラッシックバレエを習い、美しく踊る基本的な動きが自然に身についているかどうかが、結果的に、思いを表現できるかどうかにかかってくる」のだそうだ。
さて、話を池田の例に戻そう。池田の成功も、技術的な課題に対し、徹底して問題の本質を見定める知識と論理的思考力を身につけていたことが大きい。研究に没頭し、フロー状態になるためには、そのフィールドにおける基礎的な知識と能力は欠くことのできない素養なのだ。それがなければフロー状態も作れず、電話機におけるダイヤルのトラブルを解決することも、コンピュータを開発することもできなかったであろう。
これは何もダンサーや技術者に限ったことではない。あらゆる職種について当てはまることである。その職種に根差す、欠くことのできない素養や能力とは何か?それを身につけているかどうか?それがフローの源泉なのだ。フローを生み出す社員を増やしたければ、人材採用時に、この素質を見極めなければならないのである。
では、どうすればその素質の有無を見定めることができるのであろうか。それは、フロー状態にあり、成果をあげることのできる社員を対象として、その素養とは何かを突き止め、明文化するとともに、採用指針として適用することである。
フロー状態にある社員が、没頭し成果をあげるために必要なことを明文化できれば、採用だけではなく、教育指針として適用することもできる。基礎のできていない人間にいくら上辺のテクニカルなことを教えても、一時的ではなく恒常的に能力を発揮できるような、いわゆる身についた状態にはならない。逆に、しっかりと基礎が身についていれば、経験のない仕事も、基礎をベースにして対応することができる。
つまり、基礎を固めることというのは遠回りのようで、実は近道なのだ。他社に負けじと、表面的で流行りの研修を追いかけるように提供するのではなく、自社のフロー社員を増やすために必要な基礎教育を研修体系として組み立てるべきなのである。
実際の仕事においてフロー状態を作り出すためには、池田と小林の例が示す通り、フロー状態を作り出せる環境を構築することが必要である。小林が池田を特例で遇したように、その阻害要因となる社内のルールを変えていかなければならない。
フロー状態からは、通常では想像もできないような大きな成果が生まれる。しかし、既存の社内規定や暗黙の習慣を前提にするということは、逆にその可能性が摘み取られるリスクを放置しているのと同じことなのである。
社会の全体的な流れとして、規定は厳しくなり、それに合わせる風潮がある。それでは、イノベーションは生まれにくくなってしまう。イノベーションを起こせる人材が必要とする働き方に合わせて、臨機応変に社内ルールを変えていく。これが、仕事が楽しくできる会社に変えるための、マネジメントの本質なのである。
執筆=峯 英一郎(studio woofoo)
ライター・キャリア&ITコンサルタント。IT企業から独立後、キャリア開発のセミナーやコンサルティング、さまざまな分野・ポジションで活躍するビジネス・パーソンや企業を取材・執筆するなどメディア制作を行う。IT分野のコンサルティングや執筆にも注力している。
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