オフィスあるある4コマ(第66回)
突然現れた不審な車
メールは今では誰もが利用する当たり前のビジネスツールだ。相手がその場にいなくても伝えられる非同期性、やり取りが記録に残るメモリー性、内容を他の人と簡単に共有できる共有性など、多くの利点がある。そのため、ビジネスを円滑に進める上で欠かせないコミュニケーションツールとして活用されている。しかし、新人の中には、こうしたメールをまだ使いこなせていないケースも少なくない。どう指導すればよいのだろうか。
■目次
・メールが書けないと何が問題になる?
・なぜ新人はメールが書けない?
・先輩が教えるべき「件名の型」と「テンプレート活用」
・先輩社員が意識するべき「フィードバックの仕方」
・「メール作成の質を高める仕組み」~デジタルツール~
・おわりに
新人がうまくメールを書けていないと、職場では次のような問題が起こりやすくなる。
1.件名だけで用件や重要度が伝わらず、優先度の高いメールでも後回しにされる
2.件名が分かりにくいために埋もれてしまい、そもそも見落とされる
3.内容を確認するためだけに本文を開く手間が生じ、相手の時間を奪ってしまう
こうした問題は、送り手である新人本人が気づきにくいだけに厄介だ。件名や文面が分かりにくいメールが積み重なると、業務の停滞や確認のための余計なやり取りが増え、送り手・受け手双方の生産性を下げてしまう。対応の遅れが商談機会の損失につながるなど、相手からの信頼を損ねることにもつながりかねないため、見過ごせない。
新人がメールをうまく書けない理由として以下の3つが考えられる。
1.ビジネスメールを書いた経験が少なく、何を件名に書けばよいか分からない
2.文章作成に慣れておらず、要点を簡潔にまとめる力がまだ身についていない
3.毎回ゼロから文面を考えるため、時間がかかり後回しになりがち
「センスがないから」「注意力が足りないから」と決めつけてはいけない。
新人の多くは、そもそもビジネスメールの書き方を体系的に教わっていない。もしそうであれば、問題は個人の資質だけにあるのではなく、教え方や仕組みの側にもあるということになる。
逆に言えば、件名や文面の「型」をあらかじめ用意し、それを使いこなす方法を教えれば、新人はぐっと書きやすくなる。
ビジネスメール作成で重要なポイントの一つが「件名」の設定だ。日々やり取りされるメールが多く、ゆっくりとチェックする時間が取れない中で、優先して読んでもらうためには、一目で用件や重要性が分かる件名を付けることが求められる。
しかし、ビジネス経験が少なく、文章作成能力がまだ発展途上の新人にとって、件名の設定は難しいところでもある。そこで活用したいのが、OutlookやGmailなどメーラーの定型文登録機能や、パソコンのIME(日本語入力システム)が備える単語登録機能だ。アポイント調整やお礼、進捗報告などよくある用件に応じた件名をあらかじめ登録しておけば、迷わず適切な件名を付けられるようになる。
件名だけでなく、メール本文の構成パターンを教えることも欠かせない。用件に応じた送信文の共通テンプレートを定型文登録機能に登録しておき、それを叩き台にして書けるようにしておけば、誰でも一定水準のクオリティを保ちながら、作成にかかる時間を削減できる。
1.迷う時間がなくなる
目的の言葉や文章を当てはめるだけでよいので、どう書こうか迷う時間が減り、作成の手間を省ける
2.一定のクオリティを保てる
テンプレートに沿うことで、伝えるべき事項の抜け漏れがなくなり、手戻りも減ってビジネス全体のスピードアップにつながる
3.テンプレートの反復利用がそのままトレーニングになる
「習うより慣れよ」の通り、繰り返しテンプレートを使ってこなすうちに、自然とメールや文章を作成する力が身についていく
新人の成長を促すには、型やテンプレートを教えるだけでなく、書いたメールへのフィードバックの仕方も重要になる。件名やテンプレートの「型」を教えるだけでは、メール作成能力の底上げとしてはまだ不十分かもしれない。能力には個人差があり、どこでつまずくかも人によって異なる。だからこそ、先輩・上司が新人1人ひとりに寄り添い、書いたメールへの返し方まで意識することが、早期の戦力化につながる。
新人は、最初の数回のフィードバックで「この人には見てもらいやすい」「この人には見せづらい」ということを強く学習する。受け取り方・返し方次第で、次に書くメールの質も変わってくる。
・NG行動の例
1.赤字で直すだけで、なぜ修正が必要かを説明しない
2.忙しさを理由に、確認や添削を後回しにする
3.一度指摘した内容を繰り返し注意し、必要以上に萎縮させる
こうした対応を繰り返すと、新人は「見てもらっても意味がない」「怒られるだけ」と感じ、自分で工夫しなくなってしまうだろう。
・良い行動の例
1.修正の理由を添えて伝える
「直す」だけでなく、「この件名の方が一目で用件が伝わるよ」と理由を一言添えるだけで、新人は次に自分で応用できるようになる。
2.問いかけて、考えさせる
「この件名だと、何が伝わりにくいと思う?」と問いかけることで、新人は受け身ではなく、自分で考える習慣を身につけやすくなる。
3.こまめに、早めに確認する
送信前に確認する習慣をつけることで、手戻りを防ぎながら、自然とフィードバックの機会を増やせる。
メール作成の質を安定させるには、先輩・上司の関わり方だけでなく、職場の仕組みを整えることも大切だ。そこで有効なのが、デジタルツールの活用だ。
(例)
・Microsoft365の「SharePoint」「Word」やGoogle Workspaceの各アプリケーションには、共同編集機能が備わっている。対象ファイルをクラウドストレージにアップし、相手を招待するだけで、特定の相手と一緒に編集作業ができる。
→相手がいつどんな修正を入れたかがリアルタイムに分かり、双方がいつでも変更履歴を見直すこともできる。先輩・新人のどちらも、いつでもどこからでも作業できる上、アクセスできる相手を限定できるため、セキュリティリスクを抑えられる。コメント機能や修正提案機能を使えば、一方的に直して終わりにせず、どう直すべきかを一緒に考えるタイミングを作れる。
・生成AI(Generative AI)を使った「下書き相談」を取り入れる。社内のチャットツールなどに文案を投稿させ、送信前に生成AIにチェックさせる。NTT西日本も2023年に山口県でテキスト生成AIサービスの活用実証を行うなど、企業における生成AI活用の動きは広がっている。
→伴走型の指導は先輩・上司にとって時間的な負担が大きいが、生成AIを活用すればその負荷を減らせる。新人によっては、人よりも生成AIの方が気軽に相談できると感じる場合もあり、先輩・上司が指導の選択肢を増やす取り組みが、新人育成のポイントになる。
メール作成の質は、本人の意識だけで改善するものではない。見てもらいやすい雰囲気と、書きやすくなる仕組みの両方を整えることで、職場全体のコミュニケーションの質は高まっていくだろう。
新人がメールを書けないのは、必ずしも「センスがないから」ではない。多くの場合は、件名や文面の型を知らない、時間がかかるという壁がある。
だからこそ、先輩・上司には「ちゃんと書いて」と求めるだけでなく、どうすれば書けるようになるのかを具体的に教える姿勢が求められる。件名は一目で用件が伝わるように、本文はテンプレートを叩き台に。こうした基本の型を共有するだけでも、新人の書くメールは大きく変わる。
さらに、フィードバックの仕方や、デジタルツールを活用した仕組みづくりまで含めて見直せば、職場のメールコミュニケーションはよりスムーズになるだろう。
新人指導の一歩として、まずは件名とテンプレートの「型」を言語化して伝えるところから始めてみてはいかがだろうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点のものです。
執筆=高橋 秀典
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