「釜めし」最前線!(第1回) “温かい!”で大ヒットした駅弁「峠の釜めし」

雑学

公開日:2017.09.28

 電車を使った出張や旅行の際、地域色が豊かな駅弁は楽しみの1つです。本記事では、駅弁の中でも見た目だけでなく味の違いが明確な「釜めし」にフォーカスを当て、日本各地を巡ってみたいと思います。今回取り上げるのは、群馬県安中市にある荻野屋(HPなどでは“おぎのや”)の「峠の釜めし」です。

釜めしが「冷たい駅弁」の常識を覆した

 駅弁は冷めた状態でもおいしく食べられることを前提にした商品です。そんな“冷めても”という前提を覆したのが、JR信越本線・横川駅(群馬県)で、荻野屋が発売した「峠の釜めし」でした。

 今から約60年前の1958年に峠の釜めしは誕生しました。しかし、実はその誕生の裏側には苦難がありました。当時の日本は高度経済成長期にあり、電車に乗る旅行客も増えていました。ところが、販売される駅弁はどこも同じようなものだったため、旅行客に飽きられていました。

 荻野屋がある信越本線横川駅は碓井峠の手前にあり、峠の急勾配を越えるために、電気機関車を連結してけん引させていました。その連結作業のため長時間駅に停車するという、駅弁を販売するには非常に良い条件の駅でした。しかし、それにもかかわらず荻野屋の業績は低迷しており、どうしたものかと悩んでいたのです。

 荻野屋の先代会長は「温かい駅弁が食べたい」「家庭的な楽しいお弁当が食べたい」というお客さまから直接聞き集めた要望と、当時土瓶で売っていたお茶や「中山道を超えるときに土器でご飯を炊いた」という和歌にヒントを得て、保温性のある陶器(益子焼)の器に入った釜めし弁当を誕生させたのです。

 駅弁と一緒に買う土瓶のお茶は1人用だったことから、釜めしの釜も1人用陶器にできないかと考え、地元の益子焼職人に相談して専用の釜を完成させます。

 この専用陶器に入った“温かい”峠の釜めしは、画期的な駅弁として雑誌などで取り上げられ、爆発的な売れ行きとなったそうです。

東京駅で「峠の釜めし」を買って食べてみた!

 現在、峠の釜めしは北陸新幹線や東京や埼玉の駅のほか、ドライブイン、高速道路のサービスエリアなどでも購入することができます。今回は東京駅構内にある「駅弁屋 踊」で購入。訪れたのが午前11時前にも関わらず、残り3個。値段は1000円(税込)です。

益子焼の陶器に入っているため、手に取ると弁当らしからぬ重量があります

実はこの手のひらサイズのお釜だけで700g以上。釜めしが入った状態だと約1㎏にもなります

 そしていよいよ中身とご対面!ご飯はしょうゆベースの味わい豊かな茶飯です。茶飯の上には鶏肉、ゴボウ、シイタケ、タケノコ、ウズラの卵、グリーンピース、紅ショウガ、クリそしてアンズが盛り付けられています。

 調理は全部の具材を釜に入れて一度に炊き上げるのではなく、茶飯を釜で炊いた後に具を盛り付けているそうです。当然ながら、釜で炊き上げていますので米粒が立っています。炊飯器から弁当容器にご飯を移し替えている駅弁では得られない食感です。

包みを開くと、陶器の蓋、お手拭き、そして別容器に入っている香の物が出現します

 土釜にはお弁当箱のような仕切りがないですし、汁気が多いと全て下の茶飯に味が染みてしまいます。それぞれの具材の汁気を適量にして、茶飯がふやけてしまわないような工夫がされています。

香の物は、キュウリ、ゴボウ、小ナス、小梅、そしてわさび漬け。種類が多く、いい箸休めになります

 実際に食べてみると、それぞれの具材だけでも白いご飯が進むくらいしっかりした味付けです。食べておいしいだけではなく、まさに「五目」(五目以上ですが)が目に入り、「見て楽しい」「見ておいしい」、釜の蓋を開けるワクワク感を誰もが持てるものになっています。

 彩り豊かな具材が茶飯とマッチして視覚的にも楽しく、風情を大切にする旅行客のニーズに見事に合った駅弁です。 

陶器に入った釜めしがおいしい理由

 釜めしは製造工場から近い店舗では温かい状態で提供されています。ですが、東京駅で購入したものまでは……仕方ありませんね。個人的な感想ではありますが、ご飯の上に具材を盛り付けただけの料理でも、おいしく食べられるのがすごいところです。別々に作っていても味の統一感が出るのが釜めしの魅力です。温かい状態で出荷され、ご飯と具材の蒸気が釜の中に充満し、味が調和されるのでしょう。

 温かい峠の釜めしが食べられるのは、2店舗(ドライブイン横川店とドライブイン諏訪インター店)です。どちらも隣接地におぎのやの製造工場があります。

 ちなみに、食べ終わった釜と蓋ですが、回収できたものは念入りに洗浄・消毒されてリサイクルされています。釜は85度の高熱で二重に蒸気洗浄されており、生産ラインは最低でも1日6回の入念な清掃(ラインを停止して実施)を行っているとのこと。その徹底ぶりから何度も厚生大臣賞を受賞しています。

 荻野屋のWebサイトには、電子レンジや湯せんによる温め方が掲載されていますので、自宅で食べてみようという場合は参考にしてみてください。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年9月10日)のものです

執筆=松田 謙太郎

1979年、長野県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、経済団体に就職。検定試験の企画・運営、中小企業のコンサルティング、経営相談・融資に留まらず、経済法規、経済政策、税制などの要望書の作成業務を行う。その後、独立開業しフリーライター業と講師業を始める。旧姓・松本謙太郎名義の記事多数。

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