海外発ビジネス最前線(第5回) 世界初の「オープンソースカー」が米国で完成

時事潮流

公開日:2017.07.27

 米アリゾナ州フェニックスにローカルモーターズ(Local Motors)という自動車メーカーがあります。2007年設立の同社は、自動車業界に革命をもたらす風雲児として業界関係者の注目を集めています。

 同社のユニークな点の1つは、自動車製造の手法を一般に公開し、誰でも自由に扱える「オープンソース」で行っていることです。例えば「ラリーファイター」は、2900人のメンバーで構成されるユーザーグループが共同で生み出した3万5000のデザイン案をベースに製造された、世界初の「オープンソースカー」です。

 ところで、自動車をオープンソースで造るとはどういうことなのでしょうか。

 同社は、まずデザインを含めたデータを公開し、外部の人にもアクセス可能にしています。デザインは、各案に世界中から投じられた票の数で決定します。内装などのデザインは購入希望者が自由にカスタマイズ可能です。自動車はデザインが決まると、ローカルモーターズが「マイクロファクトリー」と呼ぶ小型工場で生産されます。

 オープンソースで自動車を造るメリットは、外部の才能が活用できること、創造性の輪を広げられること、さらに世界中から車好きな人が集まってきてコミュニティーを形成する効果があります。インターネットを介してつながっているラリーファイターのコミュニティーには、世界中の車好きがこぞって参加しているそうです。

3Dプリンターならわずか5日で自動車が造れる

 ローカルモーターズのもう1つのユニークな点は、3Dプリンターを使って自動車造りをしていることです。同社は2014年に世界で初めて3Dプリンターを使って自動車「ストラティ」を製造し、世界を驚かせました。ストラティのデザインはインターネットで公募され、200もの応募作品から選ばれたものです。

 車体の主要パーツに関しては3Dプリントにかかった時間が計44時間。その後1日かけてCNCマシン(コンピューター制御で切削するマシン)でカットし、さらに2日かけてアセンブリ(組み立て)を行いました。その結果、プリント開始から合計5日でストラティが完成しました。

 2人乗り電気自動車のストラティは、ラリーファイターと同様、デザインのカスタマイズが可能です。購入者は事前に自分の好きなようにカスタマイズできます。

 つまり、従来の自動車造りの手法では色やオプションの選択くらいしか提供できなかった(してこなかった)車選びの幅が、デザインのカスタマイズにまで広がっているというわけです。3Dプリンターで自動車を造ることで、メーカーは、製造時間が短くなるだけでなく、消費者により多くの選択の自由を提供できるようになったのです。

 なお、ストラティの販売価格は5万3000ドル(約604万円)だそうです。

マイクロファクトリーがモノづくりと消費者を近づける

 ローカルモーターズの自動車は、同社の小型工場マイクロファクトリーで製造されます。3Dプリンター、CNCマシン、カッターなどの各種ツールを備えた自己完結型の工場です。

 マイクロファクトリーの狙いは、製造するモノを消費するエリアの近くに設置し、できるだけ製品と消費者の距離を縮めてコミュニティー化することにあります。消費者と密なコミュニケーションを取ることにより、消費する資源やリソースを削減することが期待されています。

 「100年ほど前、ヘンリー・フォードの時代には、大量生産方式が最も適していました」とローカルモーターズの共同創業者ジョン・ロジャース氏は言います。しかし、ロジャース氏は「大量生産が世界中で行われ、膨大な資源やエネルギーが消費される今日、従来型のやり方ではダメなのです」と続けます。

 必要最低限の大きさの工場をできるだけ消費地の近くに建て、原料や在庫を必要最低限備蓄し、車の車体や部品は必要な時に必要なだけ製造し、在庫を持たない。交換部品が必要になれば、その都度3Dプリンターで製造すればいいという考え方です。ロジャース氏の目には、地球の未来を見据えた新たなモノづくりの姿が映っているようです。

バスも、鉄道の部品もマイクロファクトリーで造る時代に

 ローカルモーターズの自動車造りは、既存の大手メーカーのビジネスを奪い取ってしまうものではありません。既存メーカーが今まで行ってきた自動車造りに対して問題提起し、同社なりのソリューションを提示するものです。ある種の社会実験ともいえるローカルモーターズのモノづくりですが、今後は他分野へ波及していく可能性は高いでしょう。

 ところで、ローカルモーターズがドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)と共同で開発した小型無人バス「Olli」の試験運行が、間もなくベルリンの街中で始まるそうです。ドイツ鉄道も最近、3Dプリンターによる鉄道車両の交換部品造りの適用範囲を拡大すると発表しました。

 ドイツ鉄道もマイクロファクトリーの方向へ少しずつかじを切りつつあるようです。このトレンドは、航空宇宙、建設、土木などの分野でもすでに萌芽(ほうが)し始めています。マイクロファクトリーの波が一気に広がるのは、そう遠い日のことではないのかもしれません。

※掲載している情報は、記事執筆時点(2017年7月10日)のものです

執筆=前田 健二

大学卒業後渡米し飲食ビジネスを立ち上げ、帰国後海運企業、ネットマーケティングベンチャーなどの経営に携わる。2001年より経営コンサルタントとして活動を開始。現在は新規事業立ち上げ支援を行っている。アメリカのビジネスに詳しく、特に3Dプリンター、ロボット、ドローン、IT、医療に関連したビジネスを研究、現地から情報収集している。

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