教育機関のIT戦略(第3回) 2020年、新学習指導要領でICT活用が次フェーズに

教育関連の変革 デジタル化法・制度対応

公開日:2018.11.14

 学校教育の指導基準として定められている「学習指導要領」。2016年に改訂された方針に基づく教育が、いよいよ2020年度からスタートする。その屋台骨を支えるICTについても、新たな活用推進に向けた動きが本格化してきた。今後見込まれる変化とは、どのようなものなのだろうか。

新学習指導要領の学びの在り方

 「詰め込み型」から「ゆとり教育」への転換(1998年)、そして「脱“ゆとり”」(2008年)へと、学習指導要領はおよそ10年に1度のペースで改訂されてきた。日本の教育全体の方向性を決める重要な指導基準だ。中央教育審議会(中教審)の答申を経て2016年に改訂された新要領では、「小学校での外国語教育」や「プログラミング教育」といった目新しい取り組みに注目が集まっているが、ICTのさらなる活用も特徴だ。まず、新学習指導要領の基本的な考え方を紹介しよう。

 新学習指導要領の考え方では「主体的・対話的な深い学び」の実現をめざす。「アクティブ・ラーニング」という言葉を聞かれた方も多いだろう。これまで教員から児童、生徒に向けて一方的に行われていた教育を、双方向型の対話の積み重ねに変える。そのためにはパソコンなどの情報機器の活用が効果的だ。文部科学省は学校でのICT活用を強力に推進する姿勢を前面に打ち出しており、それが改訂内容にも表れている。

ICT環境整備と、ICTを活用した学習活動

 社会の情報化が急速に進む中で、未来を担う学生に対する情報教育やICT活用の重要性は年々高まっている。新学習指導要領では、情報活用能力を言語能力と同様に「学習の基礎となる資質・能力」と位置付け、各教科を横断的に支える存在として捉える。情報活用能力の育成を図る取り組みとしては、各学校においてコンピューターやネットワークを活用するための環境の整備が明記された。

 具体的に示すと、これまで主にコンピューター教室で行っていた情報教育を、他の授業と同様に普通教室で行えるようにする。現在、学習用のパソコンはほぼすべての学校に配備されているが、全員がさまざまな教科で専用教室を使うのは物理的に不可能だ。中教審の調べでは、2016年度の教育用コンピューター1台当たりの児童・生徒数は、全国平均で6.2人/台という状況にある。

 新要領に沿った授業を行うために、文部科学省の整備目標である「3クラスに1クラス分程度の学習者用コンピューターの配備」への対応が必須だ。速やかなパソコン導入や、ネットワーク整備が求められる。全国の教育委員会はそのための予算、人員を確保するために頭を悩ませている。

環境整備のポイントはセキュリティ

 学校のICT環境整備には追い風も吹く。デスクトップパソコンとディスプレーを全教室の机に置くのは無理でも、小型ノートパソコンやタブレットであれば邪魔にならない。面倒なケーブル類の配線は、無線LANで解決できる。さらに最近はICT機器の価格が下がっている。早い話、安価なタブレットを配布すれば文科省の整備目標は容易に実現する。

 ただし、端末数増加による課題も浮かび上がる。例えばセキュリティの問題だ。かつて企業のパソコンが1人1台環境になった頃を思い出してほしい。端末の増加は、そのままリスクの増加にもなる。不審なメールをクリックしただけで情報を抜き取られたり、Webサイトを閲覧しただけで全システムが停止したりといったトラブルが学校で発生したらどうなるか。大混乱は明らかだ。

ネットワークへの負荷が高まる可能性も

 一方、セキュリティとは別に、端末増加に伴う問題として無視できないのが「ネットワークへの負荷」増大だ。これは、災害発生時に携帯電話がつながりにくくなるケースに近い。携帯電話のシステムは、1台の基地局を複数の端末で使う。キャパシティーには限界がある。一度に多数のアクセスが発生すると、場合によっては接続できなくなったり、通信速度が極端に遅くなったりする現象が発生する。

 現在、学校に設置されたLANの多くは、コンピューター教室と教職員用の端末を合わせた通信負荷に耐えられるように設計されているだろう。しかし、文科省の整備目標への対応や、動画を使った授業では一気に通信量が増え、「遅い」「つながらない」、ひいては「授業にならない」状況に陥る可能性も想定される。

 「主体的・対話的な深い学び」には、ストレスなく安全に使えるICT環境が欠かせない。すべての関係者が知恵を出し合い、児童、生徒が安心して学べる環境づくりを進める必要があるだろう。

執筆=林 達哉

【MT】

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