定型業務の支援サービス最前線(第5回) 業務を効率化するAI活用例

見える化

公開日:2019.11.20

 働き方改革の取り組みが本格化する現在、大きなテーマになっているのが「業務の効率化」。いくら残業や休日出勤を減らしても、抱える仕事がこなせず業績が低下するのでは意味がない。そこで期待が高まっているのがAIを活用した業務分析だ。

非効率な業務プロセスをあぶり出し

 業務内容の把握は、働き方改革の第一歩だ。しかし、個々の社員の仕事ぶりを確認するのは難しい。そこで本記事では、NTT西日本が提供する分析サービス「おまかせAI 働き方みえ~る」を使った事例から、具体的な取り組みを紹介する。本サービスは社員が業務で使用するパソコンの操作記録(ログ)をAIが分析し、効率化できる部分をレポートとして提供するソリューションだ。

 例えば、ある企業の担当者のログを分析した結果、パソコン作業時間の約3割が「ファイル検索」に費やされていた。大規模システム内のファイル探しは確かに骨の折れる作業だが、3割はあまりにも長い。この結果を踏まえて社員にヒアリングしたところ、同社では情報流出を防ぐためパソコンのデスクトップ画面にファイルを置くのが禁止されていた。

 必要なファイルをデスクトップ画面にコピーすれば検索時間は格段に短くなる。そこで、同様のシステムを運用する他社のケースとも比較検討し、安全にデスクトップ画面を使えるように対策した上でルールの見直しを行った。これまで「ルール」として存在し、誰も気付かなかった非効率な業務プロセスが浮き彫りになった事例だ。

 また、日常的に行われている業務も、見直せば大幅な効率化が可能になるケースもある。ある企業ではAI分析の結果、資料印刷に毎月33時間、年400時間が使われていた。驚いた部長がヒアリングしてみると、以前にも社員からタブレットによるペーパーレス化が提案されていたと判明。当時は却下されたが、分析によって明確な数字が明らかになり、ペーパーレス導入の妥当性が改めて証明された。

退職社員による属人化した業務を自動化

 すべてのビジネスパーソンに、いつかは訪れるリタイアの日。ある企業では、間もなく定年退職を迎えるベテラン社員の業務引き継ぎで悩んでいた。引き継ぎ資料を作ってもらうよう頼んだものの、ベテラン社員の業務は「本人でなければ分からない」ものが多く、マニュアル化はほぼ不可能。さらに、同時に数多くの業務を並行してこなしているため、他の社員がいきなりすべてを引き継ぐのは無理だという結論に至った。そこで、同企業はベテラン社員のパソコンログ分析結果から個別の作業を切り分け、その一部をRPAで自動処理する仕組みを導入した。

 「その人にしか分からない」というのは業務の属人化を意味する。優秀なベテランであるほど、属人化は避けられない部分もある。引き継ぎで悩む前に彼らの作業をAIで分析し、できる部分から手分けして取り組むとよい。

拠点ごとに生産性が異なる原因を分析

 複数の事業所を持つ企業では、拠点ごとの生産性の違いで悩んでいた。ある製造業では3カ所ある事業所のうち、1つの事業所だけ際立って生産性が低い状態に悩んでいた。同社では転勤や人事異動もあるため、このような差が出る理由が思い当たらない。そこでAI分析を行ったところ、その事業所のD部長が会議に提出するための資料作成に、月30時間かかっていることが分かった。

 作成を担当する社員たちにヒアリングすると「D部長からの個別オーダーが多過ぎて、本来の業務ができない」という意見が出された。当の本人に尋ねると「え…?」と絶句。D部長は普段通りの業務をしている認識しかなく、自分のオーダーが生産性を低下させているとはまったく考えていなかった。

 今回の分析では、他にもこの製造業の生産性を低下させる原因が見つかっている。本来1回のログインで業務システムにアクセスするはずが、システム設計上のミスで2回のログインが必要になっていた。時間としては短いが、ログインで中断する回数が増えれば確実に効率は落ちる。社員は2回のログインが当たり前だと思っており、6年間誰も気付かなかったという。生産性を左右する理由には、思いもよらないものもある。AI分析を行えば、より明確に原因を突き止められる。

AI分析した後に定型業務をRPAで自動化

 オフィスの定型パソコン業務を自動処理するRPAは、これまで人がやっていたパソコン作業をソフトウエアロボットに担当させるものだ。ただし現在のRPAは、定型業務を処理する存在であり、人の作業すべてを代行するものではない。また、一口に“人”と言ってもその能力は千差万別で、業務の進め方もまちまちだ。「Aさんが30分で終わらせる作業を、Bさんは2時間かけている」といった例は枚挙にいとまがない。効率化をめざしてRPAを導入したものの、思うような成果が出せず、悩んでいる企業も見受けられる。

 AI分析をして業務を見える化した上でRPAを活用すれば、効果的な定型業務の自動化を期待できる。ある司法書士法人では「お試し」感覚でAI分析を依頼した。結果、簡単な帳票作成に社員の半数以上が関わり、毎月180時間以上かかっているのが判明した。この作業はRPAで十分対応できるものだったので、本格的にRPA導入を検討するきっかけになった。

 IT活用が効率化の重要なポイントなのは間違いない。RPAなどのITツールを導入する前に各自の作業内容をAI分析し、「誰が、どんな作業を、どんなやり方で行っているのか」を確認すれば、業務を“効率化”する道筋が見えてくるだろう。

※掲載している情報は、記事執筆時点のものです

執筆=林 達哉

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