ビジネスにまつわる経費の話(第3回) 下町ロケットに学ぶ、銀行員から見たダメな経営者

資金・経費

公開日:2016.01.29

 直木賞を受賞後、ドラマ化を果たした『下町ロケット』が、昨年末にブームになりました。

 本作の魅力の1つは、原作者の池井戸氏が銀行員時代に経験したリアルな業界描写。ドラマの中でも元銀行員の経理部長が重要な役を演じていて、序盤では会社の中でどことなく疎外感が描かれています。銀行と企業は、互いにパートナーでありながらも、どこかで利害が対立する関係でもあります。活気あふれる素晴らしい企業であっても、銀行の評価は低い――そんなことが往々にしてあるのです。

 ここでは、現役銀行員の立場から見た「良い経営者」「悪い経営者」についてご紹介します。

良い経営者はケチで腰が低い?

 銀行員にとって、良い経営者として挙げられるのは次の4種類です。「(1)ケチな経営者」「(2)情報開示に協力的な経営者」「(3)情報提供に協力的な経営者」「(4)とにかく信頼関係を築ける経営者」です。以下にそれぞれの特徴を見ていきましょう。

(1)ケチな経営者
 ドラマや映画において、大成した事業家は闊達豪放(かったつごうほう)に描かれることがしばしばあります。しかし、銀行はこうした経営者を嫌う傾向にあります。銀行が求めているのは、地味でケチな経営者、つまり毎期確実にコツコツと利益を積み重ねていく経営者です。

 もちろん、闊達豪放で人間的な魅力を持っている経営者は数多くいますし、その中には大きな成功を収めている方もいるでしょう。しかし成功する経営者は、大胆さだけでなく、繊細さと緻密さを兼ね備えています。

(2)情報開示に協力的な経営者
 銀行員は稟議書で、なぜ融資が必要なのか、その融資によって業績がどのように変化するのか、そして融資金が確実に回収できる根拠を説明する必要があります。これらは具体的な数字で、誰もが納得できるように証明する必要があるため、企業の協力が不可欠です。経営者が「絶対大丈夫」と豪語しても、根拠がなければ稟議書は書けません。そのためには、企業の情報開示が不可欠なのです。

(3)情報提供に協力的な経営者
 (2)の「情報開示」と似ていますが、「情報提供」も重要なキーワードです。担当者のメンツが丸つぶれになるのは、融資金をいきなり他行に借り換えられることです。「他の銀行がもっと低い金利で貸してくれるから融資は全部返済する」と、いきなり融資返済を申し出られるのは銀行員の恥。担当者は上司から責められることになります。このような状況をつくってしまうと、窓口である担当者と良好な関係を継続するなど不可能です。担当者との関係がうまくいかなければ、対銀行との関係がうまくいくはずがありません。

 もし他行からより良い条件の提案があれば、比較検討するのは当然です。しかしこうした情報はメインバンクの担当者にも伝え、良好な関係を築いておくべきです。

(4)とにかく信頼関係を築ける経営者
 結局のところ、ビジネスの基本は銀行員が相手であっても変わりません。自ら積極的に「信頼関係」を築こうとする経営者に対しては、融通を利かせることもあるでしょう。何かの折には銀行にも顔を出し、担当者だけでなく支店長とも話せる関係を構築すべきです。

 銀行は「晴れた日に傘を貸し、雨の日に傘を取り上げる」と批判されることがありますが、それは、そもそも互いの信頼関係が築けていないことに原因があるケースも少なくありません。銀行からすれば、「雨が降る前に傘の準備をするよう」進言したとしても、聞き入れようとしない経営者もいるのです。

銀行員はドラマのような豪快な経営者を好まない?

 続いては、銀行員にとって「悪い経営者」を見ていきます。「(1)夢を語る経営者」「(2)即断即決を求める経営者」「(3)取引先を次々と変える経営者」「(4)有力者の名前を持ち出す経営者」の4種類です。

 ドラマなどではどちらかといえば、こういったタイプの経営者が多く登場します。良い部分に見える一面もありますが、銀行員からはどう見えているのでしょうか。

(1)夢を語る経営者
 夢があるからこそ困難に立ち向かい、事業を発展させることができるのは事実です。しかし、前にも述べた通り、銀行は融資の実行に当たって「確実に融資が回収できる」という根拠を、稟議書で具体的に示さなければならなりません。「この商品は将来大きなビジネスに発展する」という夢ばかり語られても、担当者にとっては机上の空論と同じ。売り上げが増え、利益が増えると数字で示せるくらいのビジョンがなければ、逆に信用を失うことになるのです。

(2)即断即決を求める経営者
 「即断即決型の経営者は決断力があって頼もしい」と思われる方も多くいます。しかしその判断の早さで急場をしのぎ、状況を打開できるのはドラマの話であって、銀行にとっては必ずしも良いことではありません。互いに協議し、練り上げた事業計画に基づき融資を実行しているにもかかわらず、唐突に「取引先を変更した」「プロジェクトは中止した」と言われてしまうと、銀行も今後の対応を改めなければなりません。

 また、いくら即断即決がモットーの経営者でも、金融機関は稟議や協議を経てはじめて融資に至るのですから、銀行に対して即断即決を求めるのも困りものです。

(3)取引先を次々と変える経営者
 事業の拡大に伴い、信用金庫から地方銀行、さらにメガバンクへとメインバンクが移るのは当然のことです。海外展開や上場のサポートを求めるなら、信用金庫や地方銀行よりもメガバンクが相応しいのは明らかです。

 しかし、単に金利の安さだけで次々とメインバンクを変えるような経営者は、銀行と良好な関係を築くことはできません。金利競争が激化し、多くの銀行が頭を下げて融資勧誘にやってきますが、本当にいざというときに頼れるメインバンクと信頼関係を築けているでしょうか?

(4)有力者の名前を持ち出す経営者
 最も厄介だとされているのが、この手の経営者です。窓口である担当者に「俺は頭取や役員とも親しい」「国家議員と懇意にしている」という話を再三聞かせるのです。本人にすれば悪気はないのかもしれませんが、この手の話を聞いて喜ぶ銀行員はいません。むしろ、何か問題点があるから人脈に頼ろうとしているのではないかと疑います。百害あって一利無しです。単純に人脈の広さを自慢したいだけなのかもしれませんが、器の狭さを見透かされてしまうだけです。

 大胆で常に大きな夢を語るような、いわゆる「カリスマ型」経営者は、銀行員から見たとき、必ずしも理想的な経営者ではありません。銀行員が求めているのは、大胆な経営戦略よりも、日々の数字を着実に積み上げること。確実に融資を受け、事業を成長させるために、派手なパフォーマンスは必要ありません。時間をかけてマメに情報提供をして、敵ではなくパートナーとして付き合っていく姿勢です。

 多くの人に支持される『下町ロケット』の主人公は、大きな夢を語る経営者です。上記の考え方に当てはめると、銀行にとって理想的な経営者ではありません。そうした経営者の成功ストーリーとして描いてしまうと、リアリティが感じられなくなってしまいます。しかし、池井戸氏は、そこに重要な登場人物として元銀行員の経理部長を加えます。それによって金融機関との関係性にリアリティーを加え、物語に厚みを持たせているのではないでしょうか。こうした組み立てが元銀行員である池井戸氏の真骨頂だと思います。

執筆=南部 善行(studio woofoo)

1991年、関西学院大学経済学部卒業。同年、地方銀行に入行し、長年にわたり地域に密着した経済活動を支援。支店勤務では営業統括部門の責任者として経験を積む。資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を生かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。その他、豊富な実務経験を生かし現在は不動産、相続対策など、関連分野においてフリーのライターとして活動している。

【T】

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