地方ベンチャーを育てる仕組みを作る(第2回) 過疎地における起業支援を全国に広めたい

地域活性化

公開日:2015.09.15

 ベンチャーブームが続いている。「早朝イベントでベンチャーと大企業をつなぐ」の連載では、毎週木曜日の早朝に開催されるベンチャーのプレゼンの場「Morning Pitch(モーニングピッチ)」がどのように生まれてきたかを聞いた。今回は、同イベントの仕掛け人であるトーマツベンチャーサポート事業統括本部長の斎藤祐馬氏に、地方ベンチャーに注目する理由について話してもらった。その2回目をお届けする。

――地方ベンチャーを成長させていくことは国の方針でもあり、斎藤さん自身の思いでもあると思いますが、喫緊の課題は何でしょうか。

斎藤:まずはやはり先ほどお話した、目線と支援者とお金なんです。東京だと何十億円と集められるベンチャーがどんどん出てきている。ベンチャー企業の戦い方って10億円調達ぐらいから規模感が変わるんです。それを超えられないといくら頑張ってもニッチなままで全然広がらない。誰にも知られずに死んでいくベンチャーも多かった。

 一方で大企業は、どんなサービスでも一度は多くの人に知られてそして淘汰される。これが大きな違いだったんですが、10億円調達ができるベンチャーが何十社と登場したことで、例えばテレビCMを見ても、スポンサーの中でベンチャーの数がもう10社ぐらいになっている。ゲーム系のベンチャー以外の会社も登場します。

――言われてみれば、確かに良く見かけるようになりました。

斎藤:これはすごい転換点です。マスのサービスをつくれる可能性が出てきた。すごく重要なことで、やっぱり地方でも資金調達ができるようにしていく必要がある。地方にも良いベンチャー企業が生まれてきており、ベンチャー投資の観点からも魅力が増してきていますが、ベンチャーキャピタルは実際にはほとんど東京の1拠点です。

 ここをつないでいくのが我々のミッションです。ビジネスモデルを考えても少人数で運営するベンチャーキャピタルはなかなか全国に拠点を持てない。そこで我々の役割として地方のベンチャーの目線を上げて、ネットワークを作ることがある。

 例えば福岡が盛り上がっているのは、やはり東京のベンチャーとのネットワークがあるからなんです。東京には福岡出身の起業家はたくさんいますが、彼らはよく凱旋をするんです。地元でイベントもよく開くし、今の市長は本気でスタートアップ都市の確立を計画している。一方で北海道や東北は、うまくつながっていない。地方の目線にとじてしまうと、ライバルがいないんです。なので5億円も売り上げがあればお山の大将になってしまう。

――なるほど。

斎藤:もっと東京の人たちとバチバチやってもらう環境をどうつくるか? 支援者やお金の話に加えて必要なのは地方ベンチャーのPRです。良い会社でも、とにかく知られていない会社が多い。地方の地元紙には出ているんです。でも全国メディアに取り上げられないので、やはり知名度は上がってこない。そういったところを全国区へと導いていくのも我々の1つの仕事です。

――地方ベンチャーの特徴として、IT系というよりは、実業ベースのところが多い印象ですが。

斎藤:ITビジネスは情報を持っている、持っていないで優位が付きます。業界全体がすごいスピード感で動いているわけです。例えばソーシャルゲームでも、ほんの数年で競争のルールが何度も何度も変わっている。こんなに速いとおそらく地方にいて情報を取りながらやるのは難しいでしょう。

帯広にはスマホをつかってウシを管理する会社がある

――でも、その地方にしかない課題がある。

斎藤:例えば面白いのが、札幌のロードヒーティング、冬に凍結する道路を溶かす仕組みですが、100万人以上の都市であれほど路面が凍るのは世界的にも珍しいそうです。そのロードヒーティングを効率的に行うために携帯端末で道を監視して、それでボイラーの作動を管理するベンチャー企業があるんですよ。

――すごいですね。

斎藤:このサービスで燃料の使用料が相当削減されるそうです。こういうものって、札幌という地方でしか生まれない。帯広にはスマホを使って牧場のウシの個体管理するベンチャーがあったりする。乳牛の搾乳量を最大化するために、発情期の周期を管理するとか、地方のベンチャーでは、ある意味ではその土地のマイナスだった部分、ロスしていた部分をプラスにするような課題解決の面で、イノベーションが生まれやすい。そしてこれらは日本という市場で見れば北海道に限られるかもしれませんが、グローバルで見ると通用するものがあるわけです。

――確かに。その土地でしか生まれようがないベンチャーが広く知られることで、全然違うニーズが出てきて資金が調達できるかもしれない。海外に売るという話もできるかもしれない。

斎藤:例えば高知県に土佐山というところがあるんです。そこは過疎地なんですね。人口970人ぐらいの村で、年々人口が減っている。そこでNPOで起業キャンプをやっている人たちがいるんです。家賃は無料で6カ月そこに住んで起業の仕方を教えてもらえる。すでに全国から若手が20~30人移住して起業しているんです。

 出てきているプランがすごく面白くて、例えばエネルギー関連のベンチャーでも東京だと多少エネルギーを起こしたところで全然賄えない。ところが970人だと村全員分が賄えたりするようなことが起こる。自治体も過疎地ですから生きるか死ぬかのところでみな必死ですし柔軟なんです。そうすると社会実験が行いやすいわけです。

 だから、いきなり東京では試せないインフラ系などは、そういう小さな地方から生まれる可能性があると思うんです。過疎地における起業支援などはぜひ全国に広めたい。我々の存在価値ってやはり日本全国に、そしてグローバルに拠点があることです。すごくいいものであっても1カ所だけでやっていると誰も知らないで終わってしまうことが多い。

 だから、それを1つのスキームにして今年も全国5拠点くらいで同じような取り組みを同時多発的にやろうとしています。そうすると何が変わるかというと、地方に戻りたいけど面白い仕事がない。じゃあ、作ればいいんだけどなかなか踏ん切りがつかない。そんなときに、ブランドになっている取り組みであれば、安心して起業できるという流れができると思うんです。

――単に地方というだけでなく、過疎地の活性化という面でも非常に興味深い。

斎藤:本当にそうだと思います。だからこそ、本当の意味での地方ベンチャーの喫緊の課題とは、とにかく知名度を上げることです。全国区で取り上げられるようなところまで話題を提供していかないといけない。そういう意味で、これからは地方ベンチャーをどんどん紹介したいと思います。ベンチャーを全国区にすることですね。いいものをきちんと紹介する。それが1つの価値だと思います。

日経トップリーダー 構成/藤野太一

執筆=斎藤 祐馬

※トーマツ ベンチャーサポートは、2017年9月1日より「デロイト トーマツ ベンチャーサポート」に社名変更しました。

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