地域活性の焦点(第1回) 保健・医療費を増やさず高齢者の健康を維持する

地域活性化 ヘルスケア

公開日:2015.12.04

 「高齢化」という言葉は、今後の日本社会を語る上で極めて重要なキーワードだ。内閣府の調査結果(平成27年版高齢社会白書)によると、65歳以上の高齢者人口は過去最高の3300万人を数え、総人口に占める割合は26%に達した。

 一方、出生数は、1973年の209万人から2010年には107万人にまで減少。さらに2030年には74.9万人まで減ると推計されている。こうした少子化によって総人口は2010年の1億2806万人から、2030年には1億1662万人、2048年には9913万人といった具合に減少が見込まれている(国立社会保障・人口問題研究所の出生中位推計値)。人口減少の中でかつて経験したことがない超高齢社会が到来する可能性が高い。

 超高齢社会の到来が避けられない状況の中で、課題となるのが医療・福祉サービスの維持・充実だ。厚生労働省が発表した2013年の国民医療費は約40兆円、国内総生産(GDP)の8%に当たる。このまま高齢化が進めば、医療費が拡大し財政に深刻な影響が出るのは確実だ。

高齢社会到来で財源捻出に悩む自治体

 この問題をとりわけ深刻に受け止めているのが地方自治体である。すでに住民の半数以上を高齢者が占める市町村も出てきている。そうした自治体は、人口の少なさなどから財源に余裕がない場合も多く、医療・福祉施設を維持し、いかにして高齢者の健康を守っていくのかが大きな課題だ。

 保健・医療費を減らすためにはどうすればよいのだろうか。たとえ高齢であっても、健康上の問題で日常生活が制限されずに生活できる期間が長くなれば、財政の負担は小さくなる。この期間は「健康寿命」と呼ばれ、それを伸ばすためには高齢者自身の日ごろの健康づくりが重要となる。

 市町村レベルにおける高齢者の健康づくりでは、地域の医療機関や保健施設に所属する医師・保健師など専門家の指導やチェックが欠かせない。住宅が密集し医療機関も充実している都市部に比べ、地方では集落が分散し医療機関の数も少ないことから、医師・保健師の負担は非常に大きくなるという問題もある。

高齢化に悩む自治体の切り札となり得るICT

 こうした現状の突破口となりそうなのがICTの活用だ。すでにICTを活用した高齢者向けの健康サービスに取り組む自治体が出てきている。これまで、地方での通信手段は電話が中心的な役割を果たしており、保健師はまず電話で相談や診査を受け付け、必要に応じて直接住民の居宅に赴き保健指導を行ってきた。これにかかる負担や時間を軽減・節約するため、光回線(FTTH)によるインターネットを活用した健康相談を行う試みなどが各地で始まっている。

 先行事例としては岩手県遠野市の取り組みがある。総務省のICTふるさと元気事業を活用して、2008年度から「ICT遠野型健康増進ネットワーク事業」を開始した。40歳以上の市民を対象に「とおのICT健康塾」を毎週2時間程度実施。テレビ電話などの情報機器を用いて参加者からあらかじめ収集・蓄積した歩数・血圧・体重などを活用して、遠隔地から医師や医療従事者が健康指導を行った。

 参加者の健康維持に顕著な効果が見られたことから、2011年度からは市の単独事業として継続運用中だ。参加者約400人が毎月会費を支払う仕組みが定着しつつある。健康塾以外に食事栄養バランス教室、ストレッチ体操教室なども開催し、より積極的な高齢者の健康維持にも取り組んでいる。遠野市の場合、2008年度の時点ですでに高齢化率が3割を超えていた。ICTを活用して地方の高齢者の健康を維持する取り組みとして参考になる部分は多いはずだ。

執筆=林 達哉

【MT】

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