ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
野沢温泉スキー場が無料Wi-Fiサービスを開始した。1台で広範なエリアをカバーできるエリクソンの屋外用無線LANを導入。スマホ用サイトやアプリとの連動で情報配信に活用している。
「今年は『携帯がつながらない』というクレームが一切なくなった。Wi-Fi利用者数も順調に伸びている」
ゲレンデ・コース数36、最長滑走距離1万mと日本屈指の規模を誇る野沢温泉スキー場。2005年の民営化後、その運営を担ってきた「株式会社野沢温泉」で取締役・総支配人を務める河野智春氏は、2014-15シーズンから開始した無料Wi-Fiサービスの効果に目を細める。
全国の観光地で公衆Wi-Fiの整備と、ICTを使った"おもてなし"を充実させようとする取り組みが進められているが、もちろんスキー場も例外ではない。近年はスキー・スノボ客もスマートフォンを使ってゲレンデや施設の情報を得たり、SNSに写真や動画をアップするなど、滑る以外の楽しみが広がってきているからだ。
野沢温泉もこれまで、スマホ向けサイトやアプリを充実させてゲレンデガイドや周辺施設案内等の情報提供に力を入れてきた。だが、トラフィックの急増によって肝心の足回りが弱体化していた。通信事業者もLTE基地局設備の増強を進めているが、それだけでは追いつかず、昨シーズンまでは何度か「通信量がパンクした」(河野氏)。
そこで昨季の終了後にWi-Fi設備への投資を決定。最も客が集中する山頂の「やまびこエリア」および「日影ゲレンデ」で、2014年12月7日のスキー場オープンとともに無料Wi-Fiサービスを開始した。
約3カ月で総アクセス数は2万5000を超え、延べ9000人が利用。トラフィックのオフロードによってLTEの品質も改善した。
当初、河野氏は「量販店で無線LANアクセスポイント(無線LAN AP)を買ってきて取り付ければよいと安易に考えていた」。だが、多くのスマホユーザーに高速かつ安定したインターネット接続を提供するには、同時接続可能な端末数が多く、かつ、広いエリアをカバーしながらアンテナ出力の小さなスマホの信号を受信できる性能が不可欠だ。また、冬季のスキー場という過酷な環境で動作する耐候性も求められる。
そこで、地元長野で通信設備施工を行うTOSYSが屋外用無線LAN APを提案。ソネットが国内総代理店を務めるエリクソン製の「BelAir20EO」の導入を決めた。
BelAir20EOは、前述の条件に合致するほか、電波を接続端末に集中して発するダイナミックビームフォーミングで干渉のない効率的な無線通信を行える特徴も持つ。また、5GHz帯電波を使って複数のBelAir20EOを中継してエリアを広げることも可能だ(端末接続に2.4GHz帯を使用)。
もう1つ、エリクソン独自の「UAM認証」機能によって、ユーザー認証が簡易にできるのも特徴だ。利用者は面倒なパスワード入力が不要で、SSIDをタップするだけでポータル画面(Web認証画面)が表示される。ポータルサイトには施設案内やイベント情報等のコンテンツを掲載し、利用者はそれぞれに隔離された(暗号化)状態でアクセスできる。野沢温泉側はログを管理し、時間帯別のアクセス数や使用端末などの利用状況も把握できる。
こうした利点を評価し、図表1のように2台のBelAir20EOで日影ゲレンデの大半をカバーしている。リフト券売場や飲食店が集まる「インフォメーション・センター」に設置した【AP1】は、指向性アンテナを使用して約600m先のメインゲレンデ最上部までWi-Fiエリア化。このAP1と5GHzで中継接続する【AP2】は、無指向性アンテナを使い、日影ゲレンデのベースエリアを広範囲にカバーしている。インターネットにはAP1からフレッツ光ネクストを経由して接続した。
また、山頂の「やまびこエリア」にもフレッツを開通しBelAir20EOを設置。多くの客が集中するエリアを優先して、計3台で無料Wi-Fiサービスをスタートした。
図表1 日影ゲレンデのアクセスポイント設置とWi-Fiエリア
図表2は、12月7日の開始後、1週間当たりの総アクセス数と利用者数を示したものだ。年末以降、1週当たり延べ1000人前後がコンスタントに利用していることがわかる。「できることなら、すべてのゲレンデをカバーしたい」と河野氏の評価は高い。来シーズンは、駐車場が隣接し、野沢温泉の"玄関口"とも言える長坂ゲレンデにもWi-Fiを拡張する計画だ。
図表2 アクセス数と利用者数の推移(1週間ごと)
河野氏がWi-Fiに力を入れる理由は、利用者の増加以外にも複数ある。外国人スキー客の招致と、その動向把握だ。
Wi-Fiを利用する端末の使用言語のデータを取得することで、外国人客の動向をつかむことができる。
というのも現在、野沢温泉スキー場を訪れる客の3割程度は外国人が占めている。同地はスキー場を核として温泉街が一体化したスノーリゾートを形成しており、野沢の売りであるパウダースノーだけでなく、"日本文化"も目当てに外国人がやってくるのだ。Wi-Fiは、国内キャリアの端末を持たない外国人客にインターネット接続を提供し、さらに、その動向を把握するのにも役立つのだ。
図表3は、約3カ月間で取得できた5000人の端末のデータだ。日本人は3割未満で、野沢を訪れる外国人が高い頻度でWi-Fiを利用していることがわかる。また、このように利用客の国籍を可視化することで、スキー場・温泉街の案内表示やホームページに新たな言語を追加する際の参考にしたり、マーケティング・PR 活動に活かすこともできるだろう。
図表3 接続端末の使用言語
もう1つ、Wi-Fi設備を活用して、より付加価値の高いサービスを提供したいという狙いもある。その例が、今回、評価版を提供し始めたアプリ「ゲレロク」だ。TOSYSが企画・提案し、長野のケー・アンド・エフ コンピュータサービスが開発したもので、スキー客がゲレンデに設置したカメラで滑走シーンを"自分撮り"できるアプリである。
AP2のある日影トリプルリフトにネットワークカメラを設置。利用客はスマホにインストールした専用アプリで、これを使って自分の滑りを録画できる。録画データはAP1からインターネットを経由してクラウド上のサーバーに保存される仕組みだ。
撮影した動画はその場でスマホで閲覧できるほか、自宅に帰った後に再生・保存したり、SNS等に公開することも可能だ。ゲレロクの自分撮り映像がSNSに投稿されることで、連鎖的な集客効果も期待できる。
現在は試験的にスキースクールの利用客のみに無償で提供しているが「非常に評判がいい」(河野氏)。今までも手持ちのカメラで仲間同士で撮影し合う人が多かったが、ゲレロクがあれば、スマホだけで自分の滑りが確認できるようになる。将来的には一般利用客にも無償で公開したい考えだ。
今後もWi-Fiエリアの拡張とともに、「野沢をもっと楽しんでいただけるサービスを増やしていきたい」と河野氏は話している。
月刊テレコミュニケーション2015年4月号/坪田弘樹
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)
【MT】