ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
新入社員同士がいきなりコンビを組まされて、漫才を披露する――。そんなユニーク極まる研修を行っているのが、中古のカー用品およびバイク用品のショップを全国展開している、アップガレージです。
会長や先輩社員が見守る中で繰り広げられる「ボケ」と「ツッコミ」。しかも演じるネタも“相方”と共に練り上げたオリジナル。一見、車やバイクとは関係のなさそうな漫才を通じて、何を学ばせようとしているのでしょうか?その狙いと効果を紹介します。
企業活動のあらゆるシーンで求められるのが、コミュニケーション能力です。営業や接客はもちろん、電話応対、社内連絡などにおいても、相手が何を望んでいて、それにどう答えればよいのかをくみ取る能力は欠かせません。
まずは知らない人間や、不測の事態にも動じない「度胸」を身に付けること。そして、誰にでも通じる「話の組み立て方」を学ぶこと。この2点が漫才研修の主な目的です。
お笑い好きの会長が、漫才の合宿に参加したことをきっかけに取り入れたというこの研修は、2011年から続けられています。研修の成果となる漫才はYouTubeにて公開されています。
アップガレージの漫才研修の流れは、まるで本物のお笑い芸人のトーナメントのようです。まずは予選があり、勝ち抜いた精鋭だけが決勝に進出。その決勝の舞台は同社の社員総会で、審査委員長には実際の会長が目を光らせています。講師も現役の放送作家や芸能事務所の講師という本格ぶりで、入社したばかりの新入社員にとっては、めくるめくような体験に違いありません。
内気な性格でも、自己主張が苦手でも、いきなり組まされた相方と共に、漫才を披露しなくてはいけません。他のコンビに負けないネタを生み出して、掛け合いを考えて、実際に演じる――。このように、楽しく追い込まれることによって、とっさの対応力と隠れたコミュニケーション能力が磨かれていくとのこと。
たとえ上位まで勝ち抜けなくても、同僚たちと競う過程で得られた経験は、業務上のコミュニケーションに生かされます。研修を受けた社員からは、「やりきったことで自信がついた」との感想も、多く寄せられているといいます。
この研修の別の効果として、新入社員が真剣に課題に取り組む点があります。このような参加型の研修であれば、たとえ「研修なんて面倒くさい」と思っている新入社員でも、積極的に取り組まざるを得ません。若者に人気の高い「お笑い」をテーマとしている効果も大きいでしょう。
さらに「漫才の発表」という確固たる成果が求められるため、講師の話を聞き流して終わり、というわけにもいきません。自力でシナリオを考える企画力、聴衆の前で演じる実行力、相方と一緒に創り上げるチームワークなど、多くの能力を培うことができます。これらは漫才研修に限った長所ではありませんが、新入社員の意欲不足に悩んでいる経営者には、こうした参加型の研修は検討の余地がありそうです。
ちなみに、漫才研修の対象は、新入社員だけではありません。同じ部署の上司と部下、社内結婚した夫婦なども参加することがあり、改めてコミュニケーション能力を磨きながら、親交を深める効果が生まれているといいます。
同社はさらに「アップアップライブ」と称した、社員が出演するお笑いライブまで開催しています。こちらは東京・下北沢の劇場で、プロの芸人と共に出演するという緊張感極まる舞台です。研修や仕事を通じて培った度胸が試される正念場といえるでしょう。
アップガレージの社員の大半は、接客や営業に従事しています。また、取り扱う商品は、中古パーツという丁寧かつデリケートな説明が求められるもの。認知度が高いとはいえない商品の魅力を伝えるために、漫才研修で磨かれたコミュニケーション能力を活用しています。漫才研修を取り入れる前のアップガレージの店舗数は、2010年時点で100店舗でしたが、2017年2月現在、150店舗を超えるまでに成長しました。
日本国内の市場は、予測されているように、人口の減少によって今後は縮小が見込まれています。その中で利益を上げていくためには、社員の精鋭化が必須といえます。企業の未来の戦力となる新入社員に求められるのは、一歩先を行く発想力と、それを実現できる確かな行動力だといいます。
抜きんでた人材を育てるために、漫才のような斬新かつ実効性のある研修を取り入れてみるのも有効かもしれません。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年2月16日)のものです。
執筆=風間 梢
フリーライター。企画、人事、ECサイト運営などを担当したのちに独立。現在は就職、流通、IT、観光関連のコラムやニュースなどを執筆している。
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