ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
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江戸時代、各藩が将軍や朝廷に差し出した献上品。地元の特産からえりすぐったその品々は、藩にとって自慢の逸品でした。それらの多くは時代とともに姿を消していきましたが、中には現代にも姿が残るものがあります。
この連載では、そんな今に伝わる逸品を「将軍様のお気に入り」として、当時のエピソードとともに紹介していきます。ぜひ出張した際に購入して、取引先や部署のお土産にしてください。
第1回は、熊本県に伝わる銘菓「加勢以多(かせいた)」です。
熊本市に、「水前寺成趣園」(すいぜんじじょうじゅえん)という、東海道五十三次の道のりを模して造られた風雅な庭園があります。ここには、細川家の初代・細川幽斎が、皇族の歌人である八条宮智仁親王に、古今和歌集の解釈の奥義を伝授したと伝わる、由緒正しき建物「古今伝授之間」が建っています。
成趣園の庭園は、この古今伝授之間から眺めるのが最も美しいといわれていますが、その絶景を眺めながら抹茶と共にいただけるのが、今回紹介する銘菓「加勢以多」です。
加勢以多という一風変わった名前は、実はポルトガル語が由来。「マルメロ砂糖漬けの箱」という意味の「カイシャ・デ・マルメラーダ」がなまり、「かせいた」になったといわれています。
マルメロとは、洋梨やかりんに似た西洋の果物のこと。加勢以多は、このマルメロのジャムを寒天で固めたものを、もち米で作った薄皮で挟んで板状に切ったお菓子です。
食べてみると、ざらりとした舌触りの薄皮と軟らかいジャムが口の中で溶け合い、甘酸っぱい爽やかな味わいが広がります。和菓子といえばようかんやまんじゅうなど、餡(あん)を使ったものが多い中、加勢以多は果物の甘さが特徴的です。当時としては珍しかったことでしょう。
この銘菓は、幕末まで毎年将軍家に献上されていたようです。細川家の出来事を年代順に記した編年史「続跡覧」に、江戸への毎年の献上品を列記した項目があります。正月には桑酒と浜塩鯛、二月には砂糖漬梅と銀杏など豪勢な献上品が並ぶ中で、四月の献上品として干鯛と一緒に「加世以多 一箱」の文字を確認することができます。春の訪れとともにやってくる異国の味を、将軍も楽しみにしていたのではないでしょうか。
加勢以多が献上品となった背景には、南蛮趣味に興じた大名・細川忠興の存在がありました。ポルトガルから伝来したさまざまな文物を収集していた忠興は、当然この南蛮菓子にも手を出します。
加勢以多の原料となるマルメロが日本に伝来したのは、江戸時代の初期に当たる1634年とされており、加勢以多もそれとほぼ同時期に誕生しています。忠興はその2年前の1632年、息子の忠利に家督を譲り、熊本南部の八代に隠居しています。余生を楽しんでいた忠興は、早速領地にマルメロの木を植え、実の栽培に取り組んだといいます。それ以来、加勢以多はたちまち細川家の名物となり、幕府や京都御所へと献上されました。
忠興といえば、「古今伝授」を伝えた父の幽斎と同じく教養人であり、また千利休の高弟として利休七哲にも数えられる茶の達人。忠興は献上品として用いるのはもちろん、茶の湯の席にも得意顔で取り入れたはずです。
加勢以多は細川家のさまざまな行事でも用いられていたようです。江戸時代の中期に行われた細川家藩主の婚礼の際には、同じく細川家の名菓として知られる「朝鮮飴」とともに、加勢以多がデザートとして提供された記録が残っています。
このように細川家伝来の銘菓であった加勢以多は、江戸時代から細川家御用達でお菓子を作り続ける肥後藩御用菓子司「山城屋」が製造を続け、幕末まで献上が続けられました。
時には長雨や津波の被害を受け、マルメロの果実が十分に採れないこともあったようで、1802年にはこれを見かねた庄屋政右衛門という村人がマルメロの挿し木を行い、奉行から褒美を与えられたことが記録として残っています。加勢以多が毎年の献上品として重要視されていたことを物語るエピソードといえるでしょう。
平成に入ると、山城屋の廃業にともない加勢以多の製造も一度は途絶えましたが、後に熊本の菓子製造会社「お菓子の香梅」がその技術を引き継ぎ、復活。伝統の味を現代によみがえらせました。ただし、ジャムはマルメロではなくかりんを使用しています。
現在、加勢以多を製造・販売しているのは香梅のみ。今も職人が一つひとつ手作りで製造しているため数が限られており、香梅の一部店舗とオンラインショップ、そして冒頭の水前寺成趣園のみで購入することができます。
価格も16枚入りで1,620円(税込み)と手ごろです。将軍が、そして細川家が愛した歴史ある熊本の銘菓を出張の際のお土産にしてみてはいかがでしょうか。
執筆=かみゆ歴史編集部(www.camiyu.jp)
歴史コンテンツメーカー。歴史関連の書籍や雑誌、デジタル媒体の編集制作を行う。ジャンルは日本史・世界史全般、アート、日本文化、宗教・神話、観光ガイドなど。おもな編集制作物に『日本の山城100名城』(洋泉社)、『一度は行きたい日本の美城』(学研)、『戦国合戦パノラマ図鑑』(ポプラ社)、『系図でたどる日本の名家・名門』(宝島社)、『大江戸今昔マップ』(KADOKAWA)、『国分寺を歩く』(イカロス出版)など多数。お城イベントプロジェクト「城フェス」の企画・運営、アプリ「戦国武将占い」の企画・開発なども行う。
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