ビジネスWi-Fiで会社改造(第44回)
ビジネスWi-Fiで"学び"が進化する
日本には386万におよぶ事業所があるといわれています。2015年7月現在の上場会社数は3495社。多くの経営者は事業を大きくし、ゆくゆくは自分の会社も上場会社の仲間入りを果たしたいと考えているでしょう。経営者として事業を拡大させる、会社を大きくする、そして上場を目標と掲げるのはごく自然なことです。
上場を果たすことで資金調達が容易になり、これまで以上の大きなビジネスに挑戦できるのは事実です。また、上場により経営者が保有している株の価値が高くなれば、多額の創業者利益が得られる可能性もあります。
しかし大企業になるのは、いいことばかりではありません。実は中小企業をうらやむ大企業や、中小企業になりたがる大企業が実際に存在するのです。なぜ、大企業は中小企業をうらやむのでしょうか。そのワケを見ていきましょう。
そもそも大企業と中小企業の違いはどこにあるのでしょう。その基準の1つとなるのが中小企業基本法による定義です。同法では製造業や卸売業、小売業、サービス業といった業種ごとに資本金と従業員数で中小企業を定義しています。例えば、製造業では資本金が3億円以下もしくは従業員数が300人以下の会社が中小企業に分類されます。
この基準に従って分類するだけなら明快なのですが、中小企業を定義する法律は中小企業基本法だけではありません。法人税法においても、別基準で中小企業は定義づけられています。
法人税法では、資本金1億円以下の企業を一律に中小企業と定めています。業種にかかわらず、どんなに売り上げがたくさんあっても、どんなにたくさんの従業員を抱える企業であっても、資本金が1億円ならば中小企業となります。税法上は資本金1億円が、大企業と中小企業の分水嶺(れい)なのです。
この分け方で中小企業となった場合には、多くの優遇措置が受けられます。その中で、最も身近で関心が高いのは交際費等の取り扱いでしょう。
交際費と聞くと、会社のお金で飲み食いするイメージがあるかもしれませんが、きちんと税法上認められたものです。決して違法なものではありません。国税庁のホームページでも、「交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用」と明記されています。
しかし、中小企業と大企業では、税制上の取り扱いが異なるのです。大企業では接待交際費としての支出は経費として認められません。一方、中小企業では交際費は年度内合計で800万円までは、支出した全額を経費として計上できるのです。
つまり、中小企業では年間800万円までは交際費を使っても、その全額が課税対象利益から差し引かれることになります。これを利用しない手はないでしょう。
中小企業の経営者の場合、利益の調整として交際費を使う選択肢があるのです。もしあなたが飲食店のオーナーであれば、こうした視点から営業攻勢をかけることもできるでしょう。そして、もしもあなたが会社員だったとしたら、このタイミングで取引先への接待を稟議(りんぎ)にかければ通りやすくなるかもしれません。
交際費の取り扱い以外にも、中小企業に対する優遇措置はさまざまに存在しています。法人税への軽減税率の適用、外形標準課税の不適用、繰越欠損金の控除上限の不適用などです。こうした税法上の“特典”を意識しているのか、皆さんがご存じの超有名企業も中小企業であり続けているケースがあるのです。
テレビのCMソングや新聞の折り込み広告で知名度抜群の通販会社、ジャパネットたかた。2014年12月期の売り上げは1538億円にまで上りましたが、資本金が1億円のため税法上は中小企業です。また、グループ売上高3030億円、従業員数2872人という規模を誇るアイリスオーヤマ。この会社も資本金は1億円ですから、税法上は中小企業なのです。
最近では、シャープが中小企業の“特典”を利用しようとしたことが話題になりました。今年5月、経営再建中の同社が1200億円以上ある資本金を1億円に減らすことを検討していると、日本経済新聞が報じ大きな問題になりました。連結売上高3兆円、従業員5万人規模のシャープはなぜ資本金1億円という奇策を思い付いたのでしょうか。
同社は、主力の液晶事業の拡大を目指す巨額投資がリーマン・ショック後の需要減で裏目に出て、深刻な経営危機に陥っていました。14年3月期には予想を上回る営業黒字を達成し経営再建は順調に進んでいると見えたのですが、15年3月期連結決算では再び巨額赤字に転落したのです。
減資の主な狙いは、1200億円の資本金を利益剰余金に振り替え、業績不振による累積損失を解消することでした。しかし、それだけなら1億円まで減らす必要はありません。1億円にしようとしたのは、繰越欠損金の控除上限の不適用を狙ったという見方があります。つまり近年の赤字(欠損金)を経理上、生かそうとしたわけです。
シャープは最終的には、資本金を1億円に減らす計画を断念し、5億円とすることになりました。このニュースを受けて菅義偉官房長官は「常識的に(1200億円以上の資本金を)1億円(に減らす)というのは、国民に違和感があったのではないか」と語りました。
しかし、シャープが試みようとした奇策に違和感はあっても、法律上認められたものであり決して違法ではありません。知名度が高い有名企業であっても資本金を1億円に抑え中小企業のままであるのも、巨大企業シャープがなりふり構わず中小企業になろうとしたのも、中小企業にはそれだけ多くの特典があるからなのです。
ビジネスが成功し、会社の規模が大きくなるのは素晴らしいことです。しかしだからといって資本金を無意味に増やすことはありません。確かに、資本金が大きければ会社の信用力は高まるかもしれません。しかし、中小企業のメリットを最大限に活用するのも、重要な選択肢です。資本金を増額しようとする際には、一度立ち止まって考えることも大切です。
執筆=南部 善行(studio woofoo)
1991年、関西学院大学経済学部卒業。同年、地方銀行に入行し、長年にわたり地域に密着した経済活動を支援。支店勤務では営業統括部門の責任者として経験を積む。資産運用、税務、財務など幅広い分野の経験、知識を生かし、現在は富裕層を対象に資産運用、コンサルティング業務を行う専門部署で活躍。その他、豊富な実務経験を生かし現在は不動産、相続対策など、関連分野においてフリーのライターとして活動している。
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